志をともにするたまに会う人との話

藻谷浩介さんと、それぞれの立場から見る地域の在り様。

『デフレの正体』『里山資本主義』などの著者、藻谷浩介さん。大手町の真ん中のビルのカフェでのわずかな時間。そこでおこなわれた、地域でひとつひとつ事実を創る立場と、数多地域の数多の事実から帰納的にセオリーを構築する立場、それぞれから語る、いまの、そしてこれからの地域の在り様、地域の視点からの国の在り様について、その濃密な対話の一部を。
(この対談は、2014年4月におこなわれました。)

第6回 日本には森がある

藻谷

私は、林業の世界のことを知らないので、
里山資本主義』では、私のところでは
うかつなことは書かないようにしてたんですけど。

竹本

そのお気遣いは、読んでてすごくわかります。
藻谷さんのパート、本当に注意して記述してるな
って思ってました。

藻谷

例えば、国産材を使わずに外材を使うのも、
一概に悪いとは言えなくて、商売人として考えると、
必然性があるから使っているんですよね。
『里山資本主義』が話題になるのはありがたいんだけども、
変に一人歩きしちゃうのがこわいんです。
このままだと、国産材利用が目的化して、
木材も、材として利用しなくてもいいから、
なんでもかんでも燃料として燃やしてしまえ、
ってなるんじゃないか。
そんな嫌な予感がするんですけど。

竹本

それは、残念ながらそのとおりです。
このままいくと、国内の大中型のバイオマス発電施設って
数十単位でつくられる。少なくとも十数箇所はできる。
で、そのほとんどは、「計算上は、周辺地域の木が、
毎年、太り増える分の材積しか使いません。
なので乱伐にならない。なのでサステナブルです。」
という事業計画がつくられていて、
それがオーソライズされているわけですけど。

藻谷

うん。

竹本

それだけの量の木を切り出し続けられる森と
木を切る人のポテンシャルがある地域はなかなかない。
なので、結果的に、地域で木の取り合いになる。
取り合いになると、安定供給しなきゃいけないから、
遠くからも木を運んでくることになる。
木というのは半分以上水なので、
移動させただけ負け、みたいな世界なんです。
移動コストがかかってしまう。
あと、広域から集めることになると、当然、
場所場所で木の特性が変わる可能性が出てくる。
そうすると、その特性次第でチップ化するための
機械の刃が、木によって充分に対応できなくなる。
そうすると、稼働が落ちる。
移動コストも生産コストも上がった上、
取り合いになってるから、仕入れコストもあがる、
がゆえに、計画未達となる。がゆえに、止まる。
という「スケールデメリット」が起こります。

藻谷

なるほど。「スケールデメリット」。

竹本

にかかわらず、多数の施設がつくられようとしてる。
西粟倉はダイレクトにお客をつくってきているので
まだいいですが、直接のお客がいない、みえない、
がゆえに未利用、がゆえに、エネルギー利用せざるを得ない、
という地域は、すごくたいへんだなと思います。

藻谷

ああ・・・、
そういうことを煽ろうと思ったわけでないんですけどね。

竹本

もちろん、それらの施設の多くは、
製材をちゃんとやって、その上でバイオマス発電もする、
という立て付けなんですよ。事業計画上は。
だけど、製材したものの出口にリアリティがない。
結局、製材後の木材製品が売れなくなるので、
でてきた木を全部燃料に回すってことになってしまう。

藻谷

そもそも、国産材か外材かっていうより、
製材してから燃やすかどうかが大事でしょ。

竹本

そのとおりです。

藻谷

いきなり燃やしちゃうっていうのは、
まずいですよね。

竹本

エネルギー効率からいっても、
山主の心象からいってもよくないですね。
結果的に、ハゲ山をたくさんつくることになる。
木を木として使うのではなく、
エネルギーにするためだけに木を切った山に、
あらためて広葉樹も植えて、新しい森づくりをしようとする
そういう人は、残念ながら、あまりいないでしょうから。

藻谷

昭和20年代の再現ですね。

竹本

おっしゃるとおりです。
放置するかハゲ山にするかって二元論しかない。
そうすると、水もだめになる。
水の問題は顕在化してくると思います。
もし全国で数十もできたら・・・。
バイオマス発電の乱立は、日本の森や水、水の流れ、
生態系にかなりの影響を及ぼすのではと心配しています。

藻谷

いやあ、困ったな。

竹本

いえ、だからこそ僕は、
『里山資本主義』に賛成なんです。
サブシステムとして地域内循環を実現する。
だけど、それは完全域内循環じゃなくて
一定割合、その割合は地域によって変わっていいけど、
都市や他の地域とつなげていきたい。
グローバルな経済とか、スケールメリットを働かせる話を
全然否定するものではないんです。

藻谷

フォワードは1~2人は必要ですよね。

竹本

はい。だけど、
グローバル経済の下請けから入って自立性を担保しようとする、
自立性を担保するために下請けになるというのは順番が逆で。
域内循環で一定の自立性を担保した上で、
「あなたたちもこれ使ってもらっていいよ」って
都市や他の地域をその出口の一つとするべきだと思います。

藻谷

私はようやくそういうことがわかってきたんですが、
とにかく、僕は事実を言いたいんです。
「事実の神様の奴隷」という主義なので。
事実を捻じ曲げて解釈するのはだめで、
事実というのは、ケースバイケースで、
規模の利益も不利益も両方ある。
「ケースバイケースなんだよ」と。
だから、国内の木質バイオマス関連事業でいえば、
「そんなでっかいもんつくっても木なくなっちゃうぜ」
ということを必死になって言って歩きたいと思います。
ところで、このエネルギーの話って、発電するよりも、
そこで燃やして熱供給しちゃったほうがいいですよね?

竹本

はい。
例えば、山形県の最上町では、
福祉系施設と医療系施設が同じ場所に統合されていて、
そこで木質バイオマスのセントラルヒーティングがあるので、
C材D材の未利用材はチップにして全部燃やせるんですね。
熱効率もすごくいい。
地域内に集中して使える仕組みがあると、
悪い木が全部そこで使える
その結果、間伐が進み、
5年後、10年後にいい木ができる。
林業としても競争力が増す。

藻谷

村落ごとのコンパクトタウンですね。
ドイツでもそういうことやっている事例がある。
日本はドイツよりも木のエネルギー量が多いですから、
それをもう少しうまく組み合わせて・・・。
一説によると、日本はドイツに比べて
自然エネルギーが6倍多いらしいですから、
だから、もっとサステナブルに出来るはず。

竹本

ホントですね。

藻谷

さらに、地熱もあるでしょ。
横持ちでロスするということではなく、
小さいサイクルで循環させて回していく
そういう構造で回していく集落が増えるといいですね。
その鍵は・・・
ドイツの場合は木をそこそこ切っちゃったので、
木ではなく、風力と太陽光になる。
だけど、日本には木がある。
大規模投資をしなくてもいい、
木でもっとできるはずだ。
それをトビムシさんはやろうとしてる。

竹本

はい。その方が雇用も生みますし。
風力や太陽光よりも、地域目線で「付加価値」が高い。

藻谷

さらに、そこに農がくっついてくる。
飛騨の河合なんかは森があって、農作物もいい。
ほんとにきれいな棚田もあるので、ツーリズムもできる。

竹本

はい、畜産もあります。
しかも、敷料の使い方から、堆肥の作り方から
空間づくりもがんばっていらっしゃる酪農家さんもいる。
いついってもまったく臭くないんですよ。

藻谷

よくご存じで・・・
それにしても竹本さん、よく時間ありますね。

竹本

はい、なんとか。
・・・いやいや、藻谷さんほど回ってないですから(笑)

藻谷

ぜひ、トビムシさんのところ、うかがいたいです。
現地行ってみせてもらえれば、僕としても勉強になるし、
わかっている人向けには僕の話をする必要はないんだけど、
わかってない人向けのお説教はするし。

竹本

はい、ぜひ。

藻谷

『里山資本主義』がいい方向に予想外だったのは、
すでにそういうことをやってる人は怒ると思ってたんです。
「こんな当たり前のこと書きやがって、このやろう」って。
でも、そうじゃなかったんですね。

竹本

いえいえ、がんばっている人は喜んでますよ。
自分たちのいってたことは間違ってなかった、
これからは自分たちの時代だ、っていって盛り上がってる。
いや、河合も、西粟倉も、奥多摩天目指集落
ぜひ、きてください。

藻谷

そうですね。
通りすがりではいけない、
呼ばれない地域に行きたいですね(笑)
 
 
おわり

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プロフィール紹介

藻谷浩介 Kousuke Motani

日本総合研究所調査部主席研究員、地域エコノミスト。1964年山口県生まれ。平成合併前3,200市町村の99.9%、海外59ヶ国をほぼ私費で訪問し、地域特性を多面的に把握。東大法学部卒業、日本開発銀行入行、米国コロンビア大学ビジネススクール留学、日本経済研究所出向などを経ながら、2000年頃より地域振興の各分野で精力的に研究・著作・講演を行う。2012年より現職。公職やテレビ出演多数。著書に『デフレの正体』『里山資本主義』など。

竹本吉輝 Yoshiteru Takemoto

1971年神奈川県生まれ。横浜国立大学国際経済法学研究科修了。外資系会計事務所、環境コンサルティング会社の設立経営などを経て、2009年、株式会社トビムシ設立。10年、ワリバシカンパニー株式会社の設立に参画。13年、株式会社東京・森と市庭を設立、代表取締役就任。専門は環境法。国内環境政策立案に多数関与。同時に、財務会計・金融の知見を加味した環境ビジネスの実際的、多面的展開にも実績多数。立法(マクロ政策)と起業(ミクロ市場)で双方の現場を知る。