志をともにするたまに会う人との話

藻谷浩介さんと、それぞれの立場から見る地域の在り様。

『デフレの正体』『里山資本主義』などの著者、藻谷浩介さん。大手町の真ん中のビルのカフェでのわずかな時間。そこでおこなわれた、地域でひとつひとつ事実を創る立場と、数多地域の数多の事実から帰納的にセオリーを構築する立場、それぞれから語る、いまの、そしてこれからの地域の在り様、地域の視点からの国の在り様について、その濃密な対話の一部を。
(この対談は、2014年4月におこなわれました。)

第4回 誇りをもって表明する立場

藻谷

海士町の話がでたついでに・・・。
私はとある対談本を出してて、
そこで海士の話もしているんです。
僕はあまり出版したくなかったんだけど・・・。
内容は、自分でいうのもなんですが、
けっこういいこといってるなと思いますよ。
ただ、過度に、海士や対談相手の宣伝になってしまうと
まずいなあと思っていて・・・。

竹本

読みました。過度にはなってなかったと思います。
ただ、言われてるほど、いろんなことが地域の自発性で起こってる、
ということはないですね、海士でさえも。
それは、やっぱり難しい。
実際は、外部の力が働いて、そこから提案や導きもあって、
それを地元も了承したカタチにはなるけど・・・みたいな。

藻谷

でも、そこでできた提案のうちのいくつかは、
結局は地域の誰かがやらなきゃいけないことですよね。

竹本

そのとおりです。
でも、カタチ上とはいえ、なんとなくとはいえ、
自分たちで了承したことなんだからやらなきゃいけない、
といった、課せられた感いっぱいな義務的思考では、
本格的には動かないし、あと、実際、なかなか続かないです。

藻谷

私は、誇りをもって自分を「評論家」と言いますが、
そこの一線は越えないんですよ。
つまり、「俺を呼んだらなにか動く」という幻想を
決して地元の人には与えない。
その点で評論家は価値ゼロだと思ってます。そのかわり、
「評論するなら俺くらいやらなきゃだめだ」って言ってます。

竹本

(笑)

藻谷

評論家がいらないのが一番いいんだけど、
必要な時は、変な奴を呼ぶくらいだったら、俺を呼べって。

竹本

そういう意味では、僕も誇りをもって言いますが、
トビムシは、そこで自らが事業をやる、
仮に、協働や支援であっても、そこでの関わりに主体的責任を負う、
という意思をもっているところしか行きません、
ということなんです。
もちろん結果的にやらない、できないこともありますが。

藻谷

うん。評論家的に言うと、
トビムシやトビムシ的スタンスで
そういうことをしている人がいて、
彼らがやれている範囲においては
私が出ていく筋合いはないわけです。
なんかの理由で面倒くさくなった時に、
認識不足で止まっている時に、
私がいって、かえってこじらせるかもしれないけど、
実際こうですよって見取り図を書いてあげることはできる。

竹本

ぜひ、西粟倉には来ていただきたいです。
僕らは、地域で事業をおこなう大前提として、
里山資本主義』にある「サブシステム」論と
ほぼ一緒なんですけど、
地域の自立性がこんだけなくなっちゃったのが
極めて重要な問題だと思ってるんです。
グローバル経済に対するオルタナティブを
地域にもたせなくちゃいけない。
それは観念論じゃダメで、そのために必要なのは、
マテリアル、食糧、エネルギーだと。

藻谷

そうですね。

竹本

その一番のボトルネックになっているのが
国土の7割を占める森だと思っています。
マテリアルそのもので、エネルギーへの転用も可能で、
その森がつくり出す水は、農業や沿岸近海漁業に、
つまり食糧に大きな影響を与える。
だから、森が、森にある木が使われないといけない。
林業が、木材加工業が機能しなければいけない。
という仮説があるから、
僕らはトビムシをやっている。
地域を何となく元気にしたいからやってるわけでも、
森を救いたいからやってるわけでもない。

藻谷

なるほど。

竹本

それをやっていくことによって、
いま言った3つの自立性が担保されてくれば
担保されなくてもその割合が高まってくれば、
地域の選択肢が広がるだろう、と。

藻谷

回るものは回るだろうと。

竹本

はい。

藻谷

僕なんかはそれに気がついてなかったんですけどね。
『里山資本主義』を出した後にいろんな方から話を聞いて、
そういえばそうだなって気がついてきて。
さっきおっしゃった自立的な循環を再生できれば、
グローバル経済の力学だけに巻き込まれて
結果的に身ぐるみはがされてしまう
そうしたリスクから離れることができる。
あと、皆さん、グローバル競争を知っている人ですよね。

竹本

はい、そうです。

藻谷

グローバル競争を全く知らない
繊細でナイーブな人たちが、
「全員でグローバル競争に身を投じるんだ!
 ワン、ツー、スリー!」みたいなことではなく。

竹本

それはつらいです。

« 前の回次の回 »

プロフィール紹介

藻谷浩介 Kousuke Motani

日本総合研究所調査部主席研究員、地域エコノミスト。1964年山口県生まれ。平成合併前3,200市町村の99.9%、海外59ヶ国をほぼ私費で訪問し、地域特性を多面的に把握。東大法学部卒業、日本開発銀行入行、米国コロンビア大学ビジネススクール留学、日本経済研究所出向などを経ながら、2000年頃より地域振興の各分野で精力的に研究・著作・講演を行う。2012年より現職。公職やテレビ出演多数。著書に『デフレの正体』『里山資本主義』など。

竹本吉輝 Yoshiteru Takemoto

1971年神奈川県生まれ。横浜国立大学国際経済法学研究科修了。外資系会計事務所、環境コンサルティング会社の設立経営などを経て、2009年、株式会社トビムシ設立。10年、ワリバシカンパニー株式会社の設立に参画。13年、株式会社東京・森と市庭を設立、代表取締役就任。専門は環境法。国内環境政策立案に多数関与。同時に、財務会計・金融の知見を加味した環境ビジネスの実際的、多面的展開にも実績多数。立法(マクロ政策)と起業(ミクロ市場)で双方の現場を知る。