志をともにするたまに会う人との話

藻谷浩介さんと、それぞれの立場から見る地域の在り様。

『デフレの正体』『里山資本主義』などの著者、藻谷浩介さん。大手町の真ん中のビルのカフェでのわずかな時間。そこでおこなわれた、地域でひとつひとつ事実を創る立場と、数多地域の数多の事実から帰納的にセオリーを構築する立場、それぞれから語る、いまの、そしてこれからの地域の在り様、地域の視点からの国の在り様について、その濃密な対話の一部を。
(この対談は、2014年4月におこなわれました。)

第3回 だから私が呼ばれない

藻谷

・・・実は、私が歯切れが悪かったのは、
上勝にも神山にも、海士にも西粟倉にも、
仕事で呼ばれたことはないんです。

竹本

ああー・・・、先ほどおっしゃられていたことですね。

藻谷

そう、うまくいっているところには呼ばれない。
だから、本当の内情は知らない。

竹本

はい。

藻谷

その場合、私は「通りがかってどうか」
ということを重視するんですよ。
うっかり視察に行って案内されちゃったりすると、
いいなってなっちゃうけど。
通りがかってみて、よくわからないところは、
隠れてすごいケースもあるかもしれないけど、
やっぱりたいしたことないってことが多いんですよ。
上勝は、確かに通りがかってわかるすごいこともありますが・・・。

竹本

上勝は、地域再生のモデルケースとして、
中央がたくさんお金をつけちゃったのが
よくなかったんじゃないかと思ってて。
そういう中央の変なお金がつかなくなれば、
またよくなると思いますよ。逆に。
神山は、もともと自分で食っていける人にしか
来てもらわない、ということを徹底してやったのが
いまの状況を生んでいると思ってます。
あと、古民家の流動性を高めたこと。

藻谷

生業をもっている人を集めるってことですよね。
また、古民家を貸してくれないというのが
日本の田舎のボトルネックなので、
彼らは、そのボトルネックをうまくクリアしていると言えます。
田舎でレストランやりたいなんて若い人は
たくさんいるんですよ。
あと、神山にはマーケットもある。
海士なんかは、ドライブがてらにお金を落とす、
そういうマーケットがないところだから、
その割にとてもよくやってると思うけど。
海士も仕事ではいっていないのでわからない。

竹本

通りすがりではいけない(笑)

藻谷

海士は有名になる20年近く前にいったきりなんですよ。
港の近くの国民宿舎に泊まったんだけど、
出す料理の質や接客の仕方が良くて
なかなか頑張ってるなという印象があった。
それから、5~6年くらいして名前をきくようになった。
僕は転入超過数をみてるんで、気がつくんです。

竹本

その数字をずっとウオッチされてるんですか?

藻谷

そう、その数字にでてこない話を私は信用しない。
神山は2011年から転入超過なんですよ。
西粟倉とか智頭とかも悪くはないけどプラスにはなってない。
だけど、海士は何年かおきに必ずそうなっている。
これはとんでもないところだと思った。

竹本

毎年30〜40人くらいIターンが来てますからね。

藻谷

海士なんて、観光的にはとんでもなく条件不利ですよ。
そんな観光集客不利を解消するには、小笠原方式しかない。

竹本

客単価を高くする?

藻谷

はい。往復で5~10万円払える人しか来ませんから。
しかも一度行ったら3泊しなきゃいけない 
そういう人相手のエコツーリズムで成り立っている
飛行機なんか飛んだらもうだめですね。
海士も観光資源は乏しいから、ものすごく難しい。
西ノ島から中ノ島(海士)の地形をみて解説するとか、
なんでもいいんですよ(笑)
お客さんがわかるように解説してお金とればいいんですよ。
小笠原なんて、実にたいしたことない自然をみせてお金をとっている。

竹本

実にたいしたことない自然(笑)

藻谷

世界遺産で国立公園ではあるけど、
たいしたことない、きわめてフラジャイル。
例えば、昔あったツツジが一株しか残ってない。
「そのツツジは自然保護のため見ることができません。
見えませんけど、あのあたりにそのツツジがあります。
これがそのツツジです。」とかいって写真を見せる。
客は、「そうか!ツツジ、頑張ってくれ!」ってなる(笑)
それはすごくおもしろいんですよ。

竹本

なるほど。

藻谷

貴重な鳩を食べてしまう野良猫を捕まえてるんですが、
その捕まえた野良猫は小屋の中に入ってるんですよ。
「あの猫どうなると思いますか?」なんて、
野良猫を捕まえている小屋も名所になる。

竹本

(笑)

藻谷

海士は隔絶性を売りにすればいけるんじゃないかな。
エコツーリズムにもなるんじゃないかって思うし。
あと、後鳥羽上皇ってどんな人だったの、とか(笑)

竹本

そうですね。
島の人に「どうしてこんなにIターンが多いんですかね?」
って聞くと、「なんといっても、歴史上最初のIターンの
後鳥羽上皇を受け入れた島ですから。」って答えたりする(笑)
それ、Iターンじゃないだろって(笑)

藻谷

海士は実際のところどんな感じですか?

竹本

そうですね。
いわゆる産業振興みたいな話は、
実情、やっぱり大変なことが多いですね。
その点、定量定性でうまくいっていると言えるのは、
島前高校の改革だと思います。
僕もここ数年ずっとそのお手伝いをしてたんですが、
去年の3月で廃校になる予定だったのが、
今年全学年2クラスになって。
クラスが増えたので、生徒数はもちろん先生やその家族も増えて。
寮も足りなくなったので、新しくつくり足すことになったり。
あと、公営の塾もちゃんと財団法人化して、
手狭になった塾舎も新設することになったり、と。

藻谷

それ、すごいですね。
集客資源としてもすごい。視察が入りますから。
「島前高校」って誰でもわかるようになっちゃいましたからね。

竹本

あと、大学AO入試にも合格者がちゃんと出るんですよ。
というのも、島の子はもちろんのこと、
島外の子も、友達の親が一次産業やってたりするので、
島や島の産業に対する危機感がものすごく強い。
その上で、学校や塾に僕も含め変わった人間が関わったりするので、
生徒たちが島の将来にこう関わりたいって真剣に考えてることを
いろんな専門家からあらゆる角度で議論してもらえる。
だから、あくまで結果的にAO入試にも対応できちゃうんです。

藻谷

なるほど。

竹本

ふつうの子は、勉強した科学的理論的な枠組みに
現象を当てはめる、という思考ですよね。
社会に出る前に大学に行って、理論が先行するんだから
仕方ないですけど。でも、島の子供たちは違う。
子供たちは、島には様々な課題が現実としてある、
まず、そのことを強く意識していて、
島の未来のためには、そのソリューションには
科学や理論も必要なんじゃないか? 
だったら大学に行くことも必要なんじゃないか?
といった意識というか思考になるんですよね。

藻谷

それはすばらしい。

竹本

改革が進んで以降の卒業生がでてきて、
Uターンする人の心持ちも変わってきました。
卒業後、都会に疲れたり敗れたりするまで帰ってこない
っていうのが、一般的な地域のUターン事情じゃないですか。
それが、海士はそうではなく、勉強してすぐに島に帰りたい人、
ネットワークをつくり貢献できるようになってから帰りたい人、
ピンポイントで町長になりたい人、が出てきてる。
遠回りのようで、かなりまっとうなやり方だと思います。

藻谷

きわめてまっとう、きわめて本筋ですね。
だから私が海士に呼ばれないんですね。

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プロフィール紹介

藻谷浩介 Kousuke Motani

日本総合研究所調査部主席研究員、地域エコノミスト。1964年山口県生まれ。平成合併前3,200市町村の99.9%、海外59ヶ国をほぼ私費で訪問し、地域特性を多面的に把握。東大法学部卒業、日本開発銀行入行、米国コロンビア大学ビジネススクール留学、日本経済研究所出向などを経ながら、2000年頃より地域振興の各分野で精力的に研究・著作・講演を行う。2012年より現職。公職やテレビ出演多数。著書に『デフレの正体』『里山資本主義』など。

竹本吉輝 Yoshiteru Takemoto

1971年神奈川県生まれ。横浜国立大学国際経済法学研究科修了。外資系会計事務所、環境コンサルティング会社の設立経営などを経て、2009年、株式会社トビムシ設立。10年、ワリバシカンパニー株式会社の設立に参画。13年、株式会社東京・森と市庭を設立、代表取締役就任。専門は環境法。国内環境政策立案に多数関与。同時に、財務会計・金融の知見を加味した環境ビジネスの実際的、多面的展開にも実績多数。立法(マクロ政策)と起業(ミクロ市場)で双方の現場を知る。