志をともにするたまに会う人との話

藻谷浩介さんと、それぞれの立場から見る地域の在り様。

『デフレの正体』『里山資本主義』などの著者、藻谷浩介さん。大手町の真ん中のビルのカフェでのわずかな時間。そこでおこなわれた、地域でひとつひとつ事実を創る立場と、数多地域の数多の事実から帰納的にセオリーを構築する立場、それぞれから語る、いまの、そしてこれからの地域の在り様、地域の視点からの国の在り様について、その濃密な対話の一部を。
(この対談は、2014年4月におこなわれました。)

第2回 呼ばれる地域、独特な地域

藻谷

私は、「地域」の分野に関わりはじめてから
20年以上たちますが、
盛り上がって消えていった地域もたくさん見てきている。
だけど、あきらかにやっている人の数は増えているし、
取り組みのクオリティもあがっていると思う。

竹本

はい。

藻谷

ただ、私には情報収集の限界があるんです。
私は困っているところにしか呼ばれない。
絶好調のところに仕事で呼ばれて、
内々のはなしを聞くことはない。

竹本

なるほど。

藻谷

で、うまくいかなくなったら呼ばれる。

竹本

(笑)

藻谷

私が呼ばれるっていうのは危険信号なんですよ。
だから、群言堂は仕事で呼ばれることはなかったんですよ。
彼らはイベント、宣伝のためにやっているのであって、
うまくいかなくなったから呼ばれるのではない。
逆に、うまくいっていたのに、
急に呼ばれるようになってしまったのが、
飛騨古川とか。

竹本

ああ、その名前が出たので言いますが、
いま我々も飛騨で事業を検討しているんですよ。

藻谷

それは、飛騨のどこで?

竹本

飛騨古川の隣の河合です。

藻谷

河合ね。
いいですね。泣かせる話ですね。

竹本

河合って聞いてすぐわかるのがすごいですね。

藻谷

いやあ、飛騨における河合、
っていうのは、本当に独特ですからね。
それこそ、阿波ですよ(笑)
こんな大手町のど真ん中で阿波とか河合とか
いう話がでるのはなかなかないと思うけど。

竹本

(笑)

藻谷

飛騨の方はどう思っているかわからないけど、
河合って独特なところです。
最近私もたくさん地域をみている中で発見したんだけど、
阿波もそうだし、河合もそう、日田市の前津江とか、
全国にいくつかあるんです。
平成の合併で消滅したけど、
よく昭和の合併の時に合併しなかったな、
普通アウトでしょ、っていう条件不利地。
共通点としては、全村斜面。

竹本

全村斜面。

藻谷

そう。西粟倉は平地があるけれども。
(西粟倉の隣の岡山県の美作市)東粟倉もそうだった。
そういうところで生き残っているところっていうのは、
独特の地の恵みがあるんですよ。

竹本

はい。

藻谷

阿波はそれがなんなのか
私はちゃんと入ってないから知らないんだけど。
河合が残った理由は、
ものすごく寒暖差が激しいために、
なにをつくっても美味しいこと。
飛騨の中でもさらに激しく寒暖差が激しい
非常に特殊な盆地。
西向き斜面の盆地で、夏は高温になり、冬は寒い。
花はきれいに咲く。米も非常に美味しい。
いろんな産品のレベルが高くなる。
小さい渓流をもとに棚田になっているので、
大きな洪水が起きにくい。
農の力が潜在的に非常に強いところなんです。
そういうのが地元の人は言語化できていないので、
「なんか知らんけど、ここはええとこなんだ」
って言ってるけど(笑)
市からすると
「お前ら人口千人しかいないくせに何言ってんだ」
ってなってしまう。
街道筋ですらないし。
そんな独特なところなんです。

竹本

われわれが地域でお仕事させていただく場合、
当然、市や町の方とお話することが多いんですが、
昭和の合併、平成の合併で、
流域や地形や文化など一切関係なしに一緒になった地域を
市町村まるごとカバーします、そこで統一的な事業を行います、
っていうのは無理なんです。地区ごとにならざるを得ない。
西粟倉は村として残っていたので、そのままだったんですけど。

藻谷

その人たちがどの程度エゴを発揮するかで
くっつく、くっつかないもあるし、
合併には、いろんな事情もあるじゃないですか。

竹本

そうですね。いろいろあります。
例えば、誰か偉い人の沽券に関わる問題とかで、
くっついても、くっつかなくても、
地域全体で機会損失がおこっているとか。

藻谷

「沽券」云々っていうのは、認識が甘いんですよ。
高度成長期の頭のまんまで、沽券だプライドだって言ってるけど、
もう、そんなこと言っていられない。
プロトコルをうるさく言うのは、
プロトコルを守っているだけの余裕があったからなんです。

竹本

プロトコルを守ってさえいれば、
成長してお金がもらえていた。

藻谷

そうです。
そうした時代を長く過ごした人が、都会よりも田舎で生き残ってて。
そういうところは数字上もよくないんですよ。
ちゃんと人口転入超過数にあらわれている。
あと、そういうところは、僕が講演にいっても、
偉い人があえてでてこなかったりする。
話を聞くくらいすればいいのに。
後になって、「俺たちも勉強してあいつに対抗してやろう」とか言って、
いきなりプリミティブな事例の勉強からはじめる。

竹本

で、いきなり視察に行っちゃう。
海士とか上勝とか(笑)
今なら神山かな。

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プロフィール紹介

藻谷浩介 Kousuke Motani

日本総合研究所調査部主席研究員、地域エコノミスト。1964年山口県生まれ。平成合併前3,200市町村の99.9%、海外59ヶ国をほぼ私費で訪問し、地域特性を多面的に把握。東大法学部卒業、日本開発銀行入行、米国コロンビア大学ビジネススクール留学、日本経済研究所出向などを経ながら、2000年頃より地域振興の各分野で精力的に研究・著作・講演を行う。2012年より現職。公職やテレビ出演多数。著書に『デフレの正体』『里山資本主義』など。

竹本吉輝 Yoshiteru Takemoto

1971年神奈川県生まれ。横浜国立大学国際経済法学研究科修了。外資系会計事務所、環境コンサルティング会社の設立経営などを経て、2009年、株式会社トビムシ設立。10年、ワリバシカンパニー株式会社の設立に参画。13年、株式会社東京・森と市庭を設立、代表取締役就任。専門は環境法。国内環境政策立案に多数関与。同時に、財務会計・金融の知見を加味した環境ビジネスの実際的、多面的展開にも実績多数。立法(マクロ政策)と起業(ミクロ市場)で双方の現場を知る。