志をともにするたまに会う人との話

藻谷浩介さんと、それぞれの立場から見る地域の在り様。

『デフレの正体』『里山資本主義』などの著者、藻谷浩介さん。大手町の真ん中のビルのカフェでのわずかな時間。そこでおこなわれた、地域でひとつひとつ事実を創る立場と、数多地域の数多の事実から帰納的にセオリーを構築する立場、それぞれから語る、いまの、そしてこれからの地域の在り様、地域の視点からの国の在り様について、その濃密な対話の一部を。
(この対談は、2014年4月におこなわれました。)

第5回 11人で点を取りにいくサッカーをやめよう

竹本

いまでもよく覚えてるんですけど、
とある地域に講演で呼ばれたときに、講演後の懇親会で、
いま地域で一番の自慢は何ですか?って首長に質問したら、
外資の製薬会社の工場を誘致したことだ、と。

藻谷

(笑)

竹本

それって、その地域にきたこともない
外国に居るCFOが、あるいは、ウォール街の投資家が
他に移転すれば数年で回収可能だ、って判断したら
できたばかりであっても、すぐに他に工場を移転しちゃう、
そうした可能性があるってことですよね。
もちろん、ボーナスポイントとして
そうした誘致が上手くいくことは悪いことではないけれど、
それを地域の一番の自慢に、エースの四番にしちゃったら、
サステナブルじゃない、どころではない。

藻谷

かつての巨人のチームづくりみたいな。

竹本

ホントに(笑)
ついさっきの僕の講演の話はなんだったんだって(笑)
だから、そうじゃない、自立性を担保できるところに
寄与していきたい、関わっていきたい。
森、木がもっているポテンシャルっていうのは、
マテリアル的、エネルギー的、食糧的に高い、
からこそ、そこにフックをかけるわけです。

藻谷

なるほど。

竹本

また、そのフックのかけ方も、
場所によって当然違ってくる。
西粟倉奥多摩も林業ベースでやりはじめてますが、
飛騨の河合がそれらと違うのは、8割が広葉樹なんです。
他のところは7〜8割が針葉樹なんですけど。
しかも、飛騨の匠がいる。
しかも、外国人を含めた観光客が多い。
そうした飛騨のもっているポテンシャルを前に、
いままでのトビムシのアプローチとはちょっと違うカタチで
インテグレートしたいって気持ちがあるんです。

藻谷

いやあ、おもしろいです。
私はなるべく本は出したくないんだけど、
本を出したおかげで、こういう面白い情報が入る。
やってる人がむこうから声をかけてくれる。
私がようやく気づいたことを
前から考えてやっている人が教えてくれる。
いまおっしゃったように、
森をベースに域内循環を再構築する。
あくまで、グローバル経済を否定するのではなく。
その点で『里山資本主義』を評価してくださったわけですよね。
オールオアナッシングではない、「サブシステム」である点で。

竹本

そうです、そうです。

藻谷

グローバル経済だけではない。「サブシステム」。
また、グローバル経済に飛び込むにしても、
いきなり裸で飛び込むんじゃなくて、
自分たちの足腰をしっかりかためてから。

竹本

はい。

藻谷

最近私はそれをサッカーで例えてるんですよ。
11人で点を取りにいくサッカーをやめよう、
ワントップでいいのよ、と。

竹本

すっごくよくわかります。

藻谷

さっきの外資の製薬会社の工場の例は
いまはエースとして活躍していていいかもしれないけど、
期限付きで、レンタル移籍ですぐ戻る可能性あります、と(笑)
キーパーが公共土木だとすると、 
キーパーが5~6人いても結局点とられるし、
守ってばっかりじゃなく点とらなきゃ勝てないですから。
キーパーは1人でいい。フォワード以外の、
あとの8〜9人がなにをするかっていったら、
真ん中でボールを回してる。
彼らがボール回さないと、
シュートチャンスも生まれないし、
敵にシュートも打たれちゃう。
だからこそ、彼らが鍵を握っている。
それは、地域社会では何をいっているのかと言うと、
「地域でお金を循環させている」。

竹本

デフレの正体』に書かれている
「付加価値ってなにか」という話もそうですよね。
本来的な付加価値は、決して労働生産性を高めることではない、
人を必要とする仕事、労働集約的な仕事こそが付加価値の源泉だ、
人とお金が回ってることが大切なんだ、と。
合理化して11人じゃなくて7人でもサッカーできます
っていうのは、その地域の付加価値が減ったことになりますよね。

藻谷

まったくその通り。
いわゆる本当に競争力の高い国はそれをやってます。
人口の再生産にも貢献している。

竹本

奥多摩に、ぜひお連れしたい集落があります。
江戸自体からずっと続いている天目指(あまめざす)集落
そこの集落はいまひと家族しか残っていない。
鳩ノ巣から歩いて40分。林道も作業道もない、
尾根沿いを歩いていかなきゃいけないところにある。
プロパンガスみたいな重いものを
40分ももってあがるのはたいへんなので、
必然的に、エネルギーのベースは炭と薪なんですね。

藻谷

いまだにそんなところがあるんですか?

竹本

あったんです。が、最近、林道が通ってしまった。
車で5分でいけるようになってしまった。

藻谷

ああー・・・

竹本

地域の近代化、っていうのは、
都市からの直線距離じゃなく、ロジスティクス、
利便性次第なのかなって思ってしまいます。
前近代のままで在り続けたその集落も、
都内なんですから(笑)
で、都内だから、田中角栄の列島改造論の
網にもかからなかったんだと。

藻谷

そうかもしれませんね。

竹本

奥多摩では、奥多摩湖畔の丘の上にある
廃校になった小河内小学校を借りているんですが、
この湖に流れ込む小川の水量がめっきり減っている。
針葉樹は手が入っていない、広葉樹は少ないということで、
どんどん森のスポンジ機能が低下している。
いまでは考えられませんが、昔は水量が豊富で
ダムも湖もなかった多摩川を、
上流から木をイカダにして流していたそうです。
これから、また再び、森から木を出していくことで、
森に光を取り入れることで、広葉樹も植え直すことで、
本来の森の保水力を取り戻すことができれば、
森と川、その全体風景が変わっていく。
もちろん、木が都心部で使われることになるので、
都市の風景も、少しずつ変わっていく。
そうしたことを、その場所を拠に定点観測することで、
東京で、東京の域内循環の再生を
可視化できるんじゃないかと思っています。

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プロフィール紹介

藻谷浩介 Kousuke Motani

日本総合研究所調査部主席研究員、地域エコノミスト。1964年山口県生まれ。平成合併前3,200市町村の99.9%、海外59ヶ国をほぼ私費で訪問し、地域特性を多面的に把握。東大法学部卒業、日本開発銀行入行、米国コロンビア大学ビジネススクール留学、日本経済研究所出向などを経ながら、2000年頃より地域振興の各分野で精力的に研究・著作・講演を行う。2012年より現職。公職やテレビ出演多数。著書に『デフレの正体』『里山資本主義』など。

竹本吉輝 Yoshiteru Takemoto

1971年神奈川県生まれ。横浜国立大学国際経済法学研究科修了。外資系会計事務所、環境コンサルティング会社の設立経営などを経て、2009年、株式会社トビムシ設立。10年、ワリバシカンパニー株式会社の設立に参画。13年、株式会社東京・森と市庭を設立、代表取締役就任。専門は環境法。国内環境政策立案に多数関与。同時に、財務会計・金融の知見を加味した環境ビジネスの実際的、多面的展開にも実績多数。立法(マクロ政策)と起業(ミクロ市場)で双方の現場を知る。