藻谷浩介さんと、それぞれの立場から見る地域の在り様。
『デフレの正体』『里山資本主義』などの著者、藻谷浩介さん。大手町の真ん中のビルのカフェでのわずかな時間。そこでおこなわれた、地域でひとつひとつ事実を創る立場と、数多地域の数多の事実から帰納的にセオリーを構築する立場、それぞれから語る、いまの、そしてこれからの地域の在り様、地域の視点からの国の在り様について、その濃密な対話の一部を。
(この対談は、2014年4月におこなわれました。)
第5回 11人で点を取りにいくサッカーをやめよう
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2013/07/ytakemoto-60x60.jpg)
いまでもよく覚えてるんですけど、
とある地域に講演で呼ばれたときに、講演後の懇親会で、
いま地域で一番の自慢は何ですか?って首長に質問したら、
外資の製薬会社の工場を誘致したことだ、と。
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2014/05/kmotani-60x60.jpg)
(笑)
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2013/07/ytakemoto-60x60.jpg)
それって、その地域にきたこともない
外国に居るCFOが、あるいは、ウォール街の投資家が
他に移転すれば数年で回収可能だ、って判断したら
できたばかりであっても、すぐに他に工場を移転しちゃう、
そうした可能性があるってことですよね。
もちろん、ボーナスポイントとして
そうした誘致が上手くいくことは悪いことではないけれど、
それを地域の一番の自慢に、エースの四番にしちゃったら、
サステナブルじゃない、どころではない。
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2014/05/kmotani-60x60.jpg)
かつての巨人のチームづくりみたいな。
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2013/07/ytakemoto-60x60.jpg)
ホントに(笑)
ついさっきの僕の講演の話はなんだったんだって(笑)
だから、そうじゃない、自立性を担保できるところに
寄与していきたい、関わっていきたい。
森、木がもっているポテンシャルっていうのは、
マテリアル的、エネルギー的、食糧的に高い、
からこそ、そこにフックをかけるわけです。
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2014/05/kmotani-60x60.jpg)
なるほど。
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2013/07/ytakemoto-60x60.jpg)
また、そのフックのかけ方も、
場所によって当然違ってくる。
西粟倉も奥多摩も林業ベースでやりはじめてますが、
飛騨の河合がそれらと違うのは、8割が広葉樹なんです。
他のところは7〜8割が針葉樹なんですけど。
しかも、飛騨の匠がいる。
しかも、外国人を含めた観光客が多い。
そうした飛騨のもっているポテンシャルを前に、
いままでのトビムシのアプローチとはちょっと違うカタチで
インテグレートしたいって気持ちがあるんです。
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2014/05/kmotani-60x60.jpg)
いやあ、おもしろいです。
私はなるべく本は出したくないんだけど、
本を出したおかげで、こういう面白い情報が入る。
やってる人がむこうから声をかけてくれる。
私がようやく気づいたことを
前から考えてやっている人が教えてくれる。
いまおっしゃったように、
森をベースに域内循環を再構築する。
あくまで、グローバル経済を否定するのではなく。
その点で『里山資本主義』を評価してくださったわけですよね。
オールオアナッシングではない、「サブシステム」である点で。
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2013/07/ytakemoto-60x60.jpg)
そうです、そうです。
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2014/05/kmotani-60x60.jpg)
グローバル経済だけではない。「サブシステム」。
また、グローバル経済に飛び込むにしても、
いきなり裸で飛び込むんじゃなくて、
自分たちの足腰をしっかりかためてから。
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2013/07/ytakemoto-60x60.jpg)
はい。
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2014/05/kmotani-60x60.jpg)
最近私はそれをサッカーで例えてるんですよ。
11人で点を取りにいくサッカーをやめよう、
ワントップでいいのよ、と。
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2013/07/ytakemoto-60x60.jpg)
すっごくよくわかります。
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2014/05/kmotani-60x60.jpg)
さっきの外資の製薬会社の工場の例は
いまはエースとして活躍していていいかもしれないけど、
期限付きで、レンタル移籍ですぐ戻る可能性あります、と(笑)
キーパーが公共土木だとすると、
キーパーが5~6人いても結局点とられるし、
守ってばっかりじゃなく点とらなきゃ勝てないですから。
キーパーは1人でいい。フォワード以外の、
あとの8〜9人がなにをするかっていったら、
真ん中でボールを回してる。
彼らがボール回さないと、
シュートチャンスも生まれないし、
敵にシュートも打たれちゃう。
だからこそ、彼らが鍵を握っている。
それは、地域社会では何をいっているのかと言うと、
「地域でお金を循環させている」。
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2013/07/ytakemoto-60x60.jpg)
『デフレの正体』に書かれている
「付加価値ってなにか」という話もそうですよね。
本来的な付加価値は、決して労働生産性を高めることではない、
人を必要とする仕事、労働集約的な仕事こそが付加価値の源泉だ、
人とお金が回ってることが大切なんだ、と。
合理化して11人じゃなくて7人でもサッカーできます
っていうのは、その地域の付加価値が減ったことになりますよね。
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2014/05/kmotani-60x60.jpg)
まったくその通り。
いわゆる本当に競争力の高い国はそれをやってます。
人口の再生産にも貢献している。
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2013/07/ytakemoto-60x60.jpg)
奥多摩に、ぜひお連れしたい集落があります。
江戸自体からずっと続いている天目指(あまめざす)集落。
そこの集落はいまひと家族しか残っていない。
鳩ノ巣から歩いて40分。林道も作業道もない、
尾根沿いを歩いていかなきゃいけないところにある。
プロパンガスみたいな重いものを
40分ももってあがるのはたいへんなので、
必然的に、エネルギーのベースは炭と薪なんですね。
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2014/05/kmotani-60x60.jpg)
いまだにそんなところがあるんですか?
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2013/07/ytakemoto-60x60.jpg)
あったんです。が、最近、林道が通ってしまった。
車で5分でいけるようになってしまった。
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2014/05/kmotani-60x60.jpg)
ああー・・・
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2013/07/ytakemoto-60x60.jpg)
地域の近代化、っていうのは、
都市からの直線距離じゃなく、ロジスティクス、
利便性次第なのかなって思ってしまいます。
前近代のままで在り続けたその集落も、
都内なんですから(笑)
で、都内だから、田中角栄の列島改造論の
網にもかからなかったんだと。
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2014/05/kmotani-60x60.jpg)
そうかもしれませんね。
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2013/07/ytakemoto-60x60.jpg)
奥多摩では、奥多摩湖畔の丘の上にある
廃校になった小河内小学校を借りているんですが、
この湖に流れ込む小川の水量がめっきり減っている。
針葉樹は手が入っていない、広葉樹は少ないということで、
どんどん森のスポンジ機能が低下している。
いまでは考えられませんが、昔は水量が豊富で
ダムも湖もなかった多摩川を、
上流から木をイカダにして流していたそうです。
これから、また再び、森から木を出していくことで、
森に光を取り入れることで、広葉樹も植え直すことで、
本来の森の保水力を取り戻すことができれば、
森と川、その全体風景が変わっていく。
もちろん、木が都心部で使われることになるので、
都市の風景も、少しずつ変わっていく。
そうしたことを、その場所を拠に定点観測することで、
東京で、東京の域内循環の再生を
可視化できるんじゃないかと思っています。
プロフィール紹介
藻谷浩介 Kousuke Motani
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2014/05/kmotani-60x60.jpg)
竹本吉輝 Yoshiteru Takemoto
![](http://takemoto.tobimushi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2013/07/ytakemoto-60x60.jpg)
1971年神奈川県生まれ。横浜国立大学国際経済法学研究科修了。外資系会計事務所、環境コンサルティング会社の設立経営などを経て、2009年、株式会社トビムシ設立。10年、ワリバシカンパニー株式会社の設立に参画。13年、株式会社東京・森と市庭を設立、代表取締役就任。専門は環境法。国内環境政策立案に多数関与。同時に、財務会計・金融の知見を加味した環境ビジネスの実際的、多面的展開にも実績多数。立法(マクロ政策)と起業(ミクロ市場)で双方の現場を知る。