志をともにするたまに会う人との話

藻谷浩介さんと、それぞれの立場から見る地域の在り様。

『デフレの正体』『里山資本主義』などの著者、藻谷浩介さん。大手町の真ん中のビルのカフェでのわずかな時間。そこでおこなわれた、地域でひとつひとつ事実を創る立場と、数多地域の数多の事実から帰納的にセオリーを構築する立場、それぞれから語る、いまの、そしてこれからの地域の在り様、地域の視点からの国の在り様について、その濃密な対話の一部を。
(この対談は、2014年4月におこなわれました。)

第1回 希望がある地域

竹本

今日はありがとうございます。
一度ゆっくりお話がしたかったので、
こういう機会をつくらせていただきました。
いま、とてもお忙しいですよね?

藻谷

(ノートパソコンの画面でぎっしりと
埋まったスケジュールをみせながら)
こんな感じです。
去年は講演が500回。会合会食等を含めると1200回くらい。

竹本

はあ・・・、すごい。

藻谷

いや、私も竹本さんとゆっくり話がしたかったので、
ありがたいです。

竹本

いま、国が推し進めた平成の大合併から10年が過ぎ、
これから交付税の合併特例措置が段階的に削減されるなど、
地方財政がより厳しくなる中でどうなるか・・・
その意味でこの1・2年は、それぞれの地域の在り方が問われる
地域にとってとても大事な時期だと思います。
僕らも、事業をおこなっている西粟倉村奥多摩町といった
行政区としての市町村だけでなく、かつて町や村だった、
現市町村内の「地区」もいくつかお手伝いしています。
例えば、岡山県津山市の阿波(あば)地区とか・・・

藻谷

阿波!
いいですねえ、あそこは面白い。

竹本

それはよかった(笑)
ちなみに、藻谷さんからみて、
「頑張っているな、いいな」という地域はありますか?

藻谷

たくさんありますよ。
みなさん知っているような有名なところを含めて。
ただ、一つ確実に言えるのは、
元気な地域は集落単位でIターンを受け入れて、
そして子供が生まれている。

竹本

西粟倉も1500人の村で、
去年、ゼロ歳児が20人くらい生まれていますね。
たくさんのIターン者がきてくれて、そして結婚して。
「増殖期から繁殖期に入った!」って(笑)

藻谷

実際、元気なところって出生率が高いですよね。
「希望」があるから。
日本でこれだけ若い人がいるのに
子供が生まれないというのは、つまりそういうこと。
そこに暮らす人間の「安心の度合い」。
それが本能的に出生率にでるんですね。
そういう意味ではシンガポールは出生率が低い。
同じように東京も低い。
共通点は、「水が自給できていない」。
農耕民族的にはアウトですね。

竹本

なるほど。

藻谷

私は、高校までは山口にずっといて、
それ以降、東京、ニューヨーク、シンガポールに住んで、
あとは日本中をできるだけ旅しています。
昨日は、私、淡路島にいたんですね。
その前が津和野で、その前が石見銀山。その前が志摩半島。

竹本

(笑)それ、どうやって移動されるんですか?

藻谷

今回は飛行機とレンタカーを使ったんですが、
私は、その場所に何時間くらいで行けるか、
どういうルートが一番いいか、聞いた瞬間にわかるんですよ。
レンタカーはよく使います。
それが一番合理的なケースもあるし、余裕があれば、
ゆっくり現地を見て回るために車を使うこともある。
パソコンをもっていかなくてよければ、
自転車でいきたいんですけどね(笑)

竹本

それは、さすがに無理がありますね(笑)

藻谷

石見銀山では群言堂のイベントにでてきました。
ちなみに、松場登美さん、ご存知ですか?

竹本

はい。とても素敵な方ですよね。

藻谷

彼らは、農業も旅館もしてるけど、
基本がデザイナーですよね。
デザインセンスがいいから、若い人を惹きつける。
それをあらためて感じました。

竹本

新しいものをつくるだけじゃなく、
古いものをとても素敵に活用されてますよね。
特に、旦那様である、松場大吉さんが。

藻谷

そう、きわめてセンスがいい。
この度、他郷阿部家の最後に残った蔵をバーに改装した。

竹本

ついに?最後の?

藻谷

そう。
登美さんはすごいものをもっていて。
蔵を整理していて最後に出てきた帳面に、
阿部「登美」さんという名前がでてきたそうです。
字も同じ。

竹本

それはすごい。

藻谷

阿部家の登美さんから
家の鍵を引き継いだような感じですよね。
彼女はそういうオカルトな強さがある。
なんて、あいかわらず石見銀山はクールです。
そういう極端にすごいケースもあれば・・・。

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プロフィール紹介

藻谷浩介 Kousuke Motani

日本総合研究所調査部主席研究員、地域エコノミスト。1964年山口県生まれ。平成合併前3,200市町村の99.9%、海外59ヶ国をほぼ私費で訪問し、地域特性を多面的に把握。東大法学部卒業、日本開発銀行入行、米国コロンビア大学ビジネススクール留学、日本経済研究所出向などを経ながら、2000年頃より地域振興の各分野で精力的に研究・著作・講演を行う。2012年より現職。公職やテレビ出演多数。著書に『デフレの正体』『里山資本主義』など。

竹本吉輝 Yoshiteru Takemoto

1971年神奈川県生まれ。横浜国立大学国際経済法学研究科修了。外資系会計事務所、環境コンサルティング会社の設立経営などを経て、2009年、株式会社トビムシ設立。10年、ワリバシカンパニー株式会社の設立に参画。13年、株式会社東京・森と市庭を設立、代表取締役就任。専門は環境法。国内環境政策立案に多数関与。同時に、財務会計・金融の知見を加味した環境ビジネスの実際的、多面的展開にも実績多数。立法(マクロ政策)と起業(ミクロ市場)で双方の現場を知る。