雪が降る before long

北海道札幌。紅葉を終え、冬支度に入ろうとする山々に、雪が空から舞い降りる。木々は、きっとその降雪に落葉を重ねようって決めてただろうに、優しく降り触れる細かな雪をついつい受け止めてしまう。そうした木々の思いを他所に、薄色の葉の上で休息していた雪たちは、吹く風に一斉に舞いあがる。雲間から再び陽が射しこみはじめた刹那、創られるそのキラキラとした空間は、あまりにスローでぎこちない、和がれるメヌエットの音色とともに、ひとり在る僕を包摂する。

まだ残る広葉樹の葉に降りかかる粉雪、その森、その風景は、とても美しく、そしてとても儚い。初雪は、これからはじまる冬の風景を、冬の暮らしを想起させる。ずっと、これからずっと、こうした風景が、こうした暮らしが在る、在り続けると。自然に、本当に自然に。でも翌日、空晴れ渡り、眩しく暖かい陽が射しこむと、森は、木々は、あたかも何もなかったかのように、紅葉直後の落葉直前の、元の絵姿に還っていく。ついさっきまで、一面キラキラと輝く世界がそこに在ったことなど、まるで忘れてしまったかのように。すると、ずっと在り続けると想ったその記憶さえ曖昧になる。僕の、僕たちの日常に、何ら変化も起きなかったかのように。包摂された確かな感覚だけを残して。

まもなく北海道は冬をむかえる。他の土地もやがてそれほど時を要すことなく冬の空気に包まれていくだろう。いつも在る秋からいつも来る冬へ。観測上記録上の日時ではない、僕が、その年はじめて雪が降るのを覚えたそのすぐ後に。冬は来る。必ず。初雪を、その日のキラキラした光景を、皆が忘れてしまったとしても。