Isolation つながるための

「都市とは違いつつましい場所だった。欲しいものが手に入る場所じゃないけど、必要なものが何か分かっていたら、それが見つかる場所だった。」エーゲ海に浮かぶ Little Island その光景がささやかれる。映画、『ハッピー・リトル・アイランド』。Anotherな生き方、そのはじまりのはじまりを予感させながら、映画は終わる。そしてその終わりは、観る者のはじまりのはじまり、につながる。

僕は、ついこの間まで、島暮らしをしていた。日本海に浮かぶ Little Island。島根県の端っこから、あるいは、鳥取県の端っこから、フェリーで3時間もかかる、小さくて小さな島に。島は、なにしろ不便だ。フェリーで移動する時間だけじゃない。フェリーを待つ時間も必要になる(一日2〜3本のフェリー時刻表に配慮する他の交通機関はない)。それだけじゃない。冬の日本海は時化る。とにかく時化る。すると、フェリーは欠航となる。すると、その日は島へ渡れない(逆もまた然り)。僕は、フェリー乗り場近くの安ホテルで、なんど(自然への)無力感に苛まれる夜を過ごしたことだろう。でも島の人たちは、そんな日は海を渡っちゃいけない仕事をしちゃいけないって神様が言ってる、ぐらいな心持ちでいる(さすがに欠航が連続すると、お食事処系や商店系の人たちがザワつき始めるけど)。だから、僕自身は、島に住む人々から、「島には特別な磁力があって人を引きつける」的な島信奉論を聴いても、「物理的往来困難性が精神的出不精を惹起する」的な島現実論の方に一票を投じたくなる。ただこのことは、島固有の魅力を否定しない。どころか、島暮らしはとても魅力的だ。海が綺麗、自然が豊か、食べ物が美味しい、時の流れがゆっくり、といったことは、島々によりその程度や組み合わせが異なるだろう。しかし、多くの島に共通する島固有の魅力は、なによりも、陸と「離」れていることだ(つい十数行前でそれを不便だと表現していたにかかわらず)。そこは、海(峡)という物理的境界の存在により、貨幣(経済)価値力学しか働かない市場メカニズムというモノから引き「離」されている。もちろん、沖縄本島の様に、100万人以上が住む島には、100万人以上という程の市場(≒マーケット)が存在するため、同市場メカニズムから「離」れることは(海という物理的境界が存在するにかかわらず)ない。実際、沖縄の那覇周辺は、一部の路地を除き、完全に本土の都市風景と同化してしまったようにみえる。また、橋のかかった(グローバル物流とconnectedな)島は、橋の先の市場メカニズムに吸引される蓋然性が高い。本四三橋でつながっ(てしまっ)た瀬戸内の島々はもちろん、四国それ自体(例えば、高松)が、どこにでもある都市風景(とその周辺風景)と化してしまったことがその証左だ。しかし、いわゆる「離」島は、物理的精神的に、(市場メカニズムを含む)中央的なモノ大きなモノから「離」れていることができる。それは、どんな中山間地域であっても例外ではない、グローバリゼーションは細部に宿る、のが常な現世において、とても希少な構造に在る、在り続けている、とても厳かな、そして、とても大切な時空間、なんだ。
だからといって、島暮らしを礼賛するつもりはない。そこで生活することは、グローバリゼーションに組み込まれる他のあらゆる場所に比べ、当然に不便であり、産業創出や産業維持が当然に難しい、近代現代社会文脈において、極めて厳しい環境(最近の流行りで云えば、「消滅可能性都市」の筆頭)だろう。ゆえに、「離」島には、人と人、人と自然のつながりが、とても色濃く残されている。情緒論なんかじゃない、つながりなくしてそれぞれの島(地域)社会を維持していくことが極めて難しい、からだ。つまり、常にグローバリゼーションに組み込まれた、市場メカニズムとつながっている社会では、人と人、人と自然は「離」れていられる(と認識されている)。逆に、市場メカニズムから「離」れた島には、人と人、人と自然のつながりがある、あらなければならない、ということ。市場メカニズムとつながる社会ではそれ以外の多くのモノが「離」れ、市場メカニズムと「離」れた社会ではそれ以外の多くのモノがつながっている、ということ、なんだ。

東日本大震災以降、つながりや絆の必要性が強く(強く)云われているけれど、瞬間的刹那的現象としてはともかく、3年半の時が経った今、その持続的困難性は明らかであろう。それは、つながりの不必要性を意味しない。不自然なつながりはつながりたり得ない、ということ。市場メカニズムにおけるつながりは、市場が機能発展している(と認識されている)限りにおいて、他のあらゆるモノが「離」れている事実を覆い隠す、ということ、だ。
僕たちは、人と人、人と自然のつながりを本来的に取り戻すために、一度、「離」れる必要がある、のかもしれない。

画像出典:http://unitedpeople.jp/littleland/