親愛なる Seiko Ito

いとうせいこうさんとのはじめての出逢いは、2011年2月6日、東京青山のとあるイベント会場だった。「東京の森林(もり)からの贈り物」と題し、都内の林業(あと木材業)関係者が多数集まる中、せいこうさんは、ただ一人業界外の登壇者としてコメンテーター的に参加されて。そして僕も、ただ一人都内で活動していない(当時)森の関係者として登壇。つまりは、都内の林業に全く関係しないという点で、自由闊達な意見が求められるという点で、せいこうさんと僕は全く同じ立ち位置だった(それ以外は全く異なるけれど)。そして、主催者の目論見通り(?)、東京で林業など土台無理な話しと結論付けている関係者の在り様に、あんなこともこんなこともできる、ああしたらいいこうしたらいい、と、二人交互に、業界的には非常識な、でもちょっとメンタルロックを解除し平易に考えれば極めて常識的な意見を、自由闊達に繰り返して。お陰で(?)、会場は大盛り上がり。終了後、せいこうさんから声をかけてもらい、とてもビックリして。正直、連絡をもらえるとは思っていなかったところに(すいません)、その夜早速twitterで僕のことを紹介してくれて、そしてすぐにメールをくれて、そしてすぐにラジオ番組に呼んでくれて。以降、せいこうさんは、多忙の身(どころではない)にかかわらず、年に複数回、僕、僕たちの話しに、真摯に耳を傾けてくれている。
せいこうさんは、当時、小説を書い(け)ていなかった、いわゆる「16年の沈黙」に在って(もちろん他分野では変わらずのご活躍だったけど)。それが、出逢いから一年後の2012年初頭に、『今井さん』、そして佐々木中さんとの共著『BACK 2 BACK』を続けて発表する。両作発表直後にお会いした際のせいこうさんの話しがとても印象に残っていて。「自分のためにはずっと書けなかったのに、人のために書くことになったら、書けたんだよね」。前者は、親しい作家が執筆予定でありながら空いて(空けて)しまった、親しい編集者の雑誌の頁を埋めるために書かれた短編、後者は、震災後、チャリティとして打ち合わせなしの即興で創作された共作。両作以降の(小説家としての、再びの)活躍は、今更殊更、僕が語るまでもないけれど、その再始動の契機はあくまで、「人のために書くこと」だったんだ。

せいこうさん(というクリエイター)は、本来的本質的なことを、その場でいとも簡単に現し伝える。僕はそのことにいつも驚かされていて。僕たちが、昨年開設した小村力研究所。その「小村力」も、一昨年、西粟倉で行ったトーク・イベントの壇上で、せいこうさんが、その場で思いつき、その場で発した言葉、だ。「これからは、ソンだよ。ソン!」。僕は当初、「ソン」と聴いて、「損(ソン)して得取れ」的なことかな、などと、トンチンカンにも思っていて。でも続けて「小さなソンが力を結集し革命を起こすんだ!」というのを聴いてはじめて、「村(ソン)」のことだと気が付いた。僕たちは、せいこうさんの発したこの言葉に真摯に向き合いながら、僕たちの言葉で以下の様に整理し、その実現に向け日々の研鑽を続けている。
「『小村力』。自然と人の関係、人と人の関係を改め、自然そのものの価値を高め、その恵みを分かち合いながら、ローカルコミュニティ自らが持続性を高めていく。たとえ分かち合うというプロセスに貨幣が介在したとして、その起源は自然の豊かさであり、関係性の豊かさであることから、グローバル経済における貨幣価値変動から離れた、本来的な価値創造、価値認識が可能となる。そんなローカルコミュニティが増えれば、その力を高めることができれば、いつの日か、この国の価値(認識)が変わる。そしてそれが、いつの日か革命となる。『小村力革命』」。
そしてもうひとつ、「東京の西から東をみる」という言葉がとても印象に残っていて。「東」という、都市の視点、貨幣資本(経済)の視点だけで物事を捉えるのは止そう、と。東からみる東京の西は、人が少なく土地が安く不便で生産性が低い、のかもしれない。けれど、「西」からの視点、すなわち、森の視点、自然資本の視点で捉えるならば、その東は、不自然で劣環境、人口過多で自給困難なとても貧しい空間で。その逆に西は、美しい風景、山川草木充ちる、四季在るとても豊かな空間で。西を(都市的経済的に)東に近づける、それが叶わぬなら人を西から東へ誘引する、そうした近代の道程に終止符を打ち、東京全体を(森的自然的に)ひとつの生態的コロニーと捉える視点発想を手に入れるのは、「東京の西から東をみる」ことではじめて可能になる、と。僕たちは、せいこうさんの発したこの言葉に真摯に向き合いながら、いま、東京・森と市庭として、その歩みを、東京の「西」、奥多摩ではじめている。

最後に、感謝と自戒の心持ちで、せいこうさんから頂いた応援メッセージを改めて紹介します。
「トビムシは難しい問題にソリューションを与える。分散し、つながり、出口を探る。私はトビムシの鮮やかな発想と行動力に敬意を表する。すぱっと解決してしまえば、人はそれがいかに難しい問題だったか忘れるものだ。忘れるくらい見事なアイデアを、私もともに考えていきます。」

追伸 いとうせいこう様、この度はラジオ番組に呼んで頂き、ありがとうございました。久しぶりの出演、あっという間の収録、本当に愉しかったです。また、近く雑誌の鼎談でご一緒することも、今からとても楽しみにしています。

photo by 井島健至