森とメジロとかすみ網 planned happenstance

むかしむかし、僕は、環境法政策の研究をしていた。もちろん、「環境」といってもいろいろある。環境省的に(あえて)整理すれば、循環型社会形成、地球温暖化対策、生物多様性保全、の3つが政策的柱であり、僕自身は、立法政策論(や政策法務)の軸で、政策区分を問わない横断的アプローチを試みていた。そうした中、生物多様性保全に関係する(といえば大いに関係する)自然保護法制として、自然環境保全法や、鳥獣保護法、絶滅危惧種法などもその対象としていた。総体としての自然はもちろん、観賞用としてのメジロや食用としてのつぐみなどの捕獲乱獲を如何に防ぐか、絶滅危惧種や希少種を如何に守るか、などの政策法務研究を、またその先行事例として、アメリカの自然保護ケース、例えば、フクロウ保護に係る法政策研究や判例研究なども(マニアックに)していた。法政策研究というのは、文献調査を主体とする法解釈論の諸研究と異なり、社会実態把握を相当程度行う必要があることから、自ずと、研究対象とする法政策背景としての社会実態に触れる機会が増える。ので、自ずと、同社会実態にも詳しくなる(マニアになる)。それはそれは、現代(近代あるいは脱近代)社会を生きる上で、ほとんど遭遇することのない(マニアックな)経験であり、日常会話を盛り上げる上で、ほとんど活かすことのできない(マニアックな)知識であり、僕の、まったくアーカイブ化されていない脳内書庫から取り出す機会は、普段(残念ながら)ほとんどない。もちろん、ウィキ的豆知識的なものを増やすために研究していたわけではないけれど、そうした経験や知識がビジネス・シーンで直接に寄与することは(残念ながら)ほとんどない。
が、先日、その滅多にお目にかかることのない、開かずの引き出しに手をかける偶発的場面が在った。きっかけは、とあるシンポジウム後の、「今度、渓流釣りが大好きな、きっと竹本さんと気が合う素敵な人(とある企業の社長)を紹介します」という、同シンポジウムに参加された、とある企業のOGの方からのお声がけ。そして、とある企業のOBの方が経営するお店に、とある企業の社長とOBOGが集い、とある企業とは縁もゆかりもない僕が、ひとり(独り)、さもとある企業のOBOGのようにテーブルを同じくさせていただく、という場面だ。そう、僕は、この素敵な(芸術文化的側面でも広く知られる)企業をカタチ創ってきた人たちの中にひとり身をおきながら、主催者であり紹介者でもあるOGの方(でさえ、僕のことをほとんど知らないため)に僕が何者であり何者でないかをお知らせするところからはじめた。そして、この集い語らいに馴染むきっかけとなったのが、なんと、かすみ網だった。かすみ網。鳥の生態的本能(詳しくは割愛するが、鳥は反射的に網糸を掴んでしまう、が、糸がゆえ、それを蹴って体を空中に飛び立たせる反動が得られなくなる、など)を利用し捕獲する仕掛けで、渡り鳥などの乱獲につながるおそれもあることから、その使用はおろか、所持も販売も頒布も、鳥獣保護法により(原則)固く禁止されている。そうした業界(?)外ではあまり知られない固有名詞が、偶然にも野鳥関係者(?)がこの集いに参加していたこともあって話題に上り、それを契機に場は大いに盛り上がった。以降、森や木や水(川)や渓流釣り等々で話題騒然(?)となったことは云うまでもない。
人生、為してきたことに無駄なことは何ひとつない、というのは本当に本当だ。

素敵な方々との素敵な時空間へ導いてくれたOGの方に感謝し、その方への信頼のみで、預かり知らない「コロニーの外」に在る僕を快く受け入れ包摂してくれた社長 OBの方々に感謝し、そして、この場を偶発的にwarm upし、出逢いの必然性を醸成してくれた、森やメジロやかずみ網(の研究経験)に感謝しながら、とある夜のとあるお店を後にした。また在る偶発的出逢いを必然なものと期して。

画像出典:http://gallery.sunnyfortuna.com/displayimage.php?pid=987