つづけつなぐ just tango on.

2013年8月31日。場所は京都。「理由は簡単です。この会社を失うことと我々が(投資した)お金を失うこと、そのどちらのリスクが(社会的に)大きいか。彼らにしか日本の林業は変えられない。我々が投資をすることで彼らが日本の林業を再生する可能性がつながる。ただそれだけです。」
600人もの投資家が集まる、年に一度の受益者総会(投資家への運用報告総会的なもの)、その午後の部に登壇した(西粟倉・森の学校代表取締役兼トビムシ取締役の牧大介を含む)各経営者を前に、投資家の方から「(登壇)各社への投資をいよいよ決めたその理由のようなものを教えてください」という質問を受け、鎌倉投信運用担当取締役の新井和宏氏は、トビムシへの投資理由として何ら躊躇なくこう返答した。通常であれば、投資企業の優位性や将来性を投資リスクとの見合いで説明するシーン。その上で当該会社にしかない(ような)社会的意義について補足する、その程度であっても決しておかしくはない。にもかかわらず、新井さんはこう返答した。こうしか返答しなかった。

鎌倉投信代表取締役の鎌田恭幸氏が改札口まで迎えにきてくれたのは、2009年8月12日。真夏の鎌倉駅、リュックを背負いながら手を上げほほ笑む鎌田さんの姿を、僕はいまも鮮明に覚えている。鎌倉は、鎌田さんがいまなお住む街であり、僕が(愉しくて楽しかった)高校時代を過ごした大切な場所でもある。そんな鎌倉という親しみ深い空間を二人で語り歩いたその先に、人混みの喧騒を抜けたちょうどその先に、鎌倉投信は在った。そして緑深いその場所に、もうひとり人物が居た。そう、新井さんだ。鎌田さんと新井さん、僕のその後の人生に大きな影響を与え(てくれ)るふたり、そのふたりと4年前の夏にはじめて語らった。ゆっくりと、長い時間をかけて。実際、僕はいっぱい話しをした(させてもらった)。森のこと、林業のこと、木材業のこと、中山間地域のこと、その全体構造のこと。そして文字通り、「一所懸命」、僕らが事業をはじめた西粟倉のことを。さらに、西粟倉でなんとか成功しなければ、僕らの事業はもちろん、林業の構造的変革も、地域の自立的持続性を林業で導くことも、すべて水泡と化してしまう、たぶんそんなことを、いっぱい(いっぱい)。鎌田さんと新井さんも、たくさん(たくさん)話しをしてくれた。それぞれ自分のことを。昔のこと、金融をしていたこと、その金融を辞めたこと、辞めた後のこと、もう一度金融をはじめようと思ったこと。そしてふたりの再会のこと、鎌倉投信のこと、鎌倉投信がやろうとしていることを。丁寧に、とても丁寧に。あっという間に、(本当に)刹那的に、4時間という時が過ぎた。僕は、本当に(本当に)ふたりと仕事がしたいと想った。鎌倉投信に、鎌倉投信にこそ支援してもらいたいと、強く(強く)思った。

あれからもう4年の歳月が流れたのか。1年と少し前、鎌倉投信は、僕らが最も資金繰りの苦しいその時にトビムシへの投資を決断してくれた。そしてこの日、僕らの代表として登壇した牧が、西粟倉・森の学校がこの7月創業はじめての単月黒字になった報告をした。することができた。遅刻した僕は直接視れなかったし聴けなかったけれど、その報告直後、会場から多くの拍手が沸いた。そのことを、到着したばかりの僕に、いつも応援してくれる投資家の方がまっすぐに伝えにきてくれた。「よかったねえ。本当によかった。おめでとう。」と、両手でぎゅっと握手をしてくれながら。本当に感謝してもしきれない。ふたりと、鎌倉投信と出会った4年間をいっぱい(いっぱい)想った。

僕らの支援者である経営者の方が、僕に真摯に丁寧に伝えてくれたことがある。「君たちのやろうとしている事は絶対に成功する。なぜなら、絶対に社会に必要なことだからだ。」赤字続きで清算が決まり(清算までの)期間限定で代表に就いた会社を、やめるどころか自らの資産すべてを投下し7年の時をかけ赤字経営を脱却、その後2年で累損を解消させた彼は、先の言葉に続けてこうも云う。「ただし、いつ成功するかは残念ながら誰にもわからない。だから経営者は、成功するまでの時をつなげなきゃいけない。つづけること。経営者がすべきことは、それだけだといっていい」と。

If you make a mistake, if you get all tangled up, you just tango on.
間違っても、足が絡まっても、踊りつづければいい。

トビムシを創業して4年半、これからも踊り続けたい、つづけつなげていきたいと強く(強く)思う。その4年半の間に、僕は鎌倉投信の受益者総会全4回に出席、うち1回目と3回目は登壇もさせて頂いた。鎌倉から京都へ、そして(来年は)横浜へ。鎌倉投信も踊り続けている。鎌田さんも新井さんも、つづけつないでいる。

京都、受益者総会の懇親会で投資家の方々へのご挨拶、そのトップバッターとして、「トビムシの竹本さん、早く前にきてください。飲んでないで。はやくはやく。」そう呼ぶ人懐っこい悪戯っぽい表情は、鎌倉、出会った頃の長髪だった新井さんと、嬉しいぐらい何ひとつ変わっていなかった。

画像提供:鎌倉投信