志をともにするたまに会う人との話

いとうせいこうさんと、東京と小村力の話を。

2011年2月に東京の森を考えるシンポジウムで出会ったいとうせいこうさん。
何度かラジオ番組のゲストに招いてもらい、昨年、西粟倉村でのトークショーにもおこしいただきました。
その時でたキーワードは「小村力(しょうそんりょく)」。
今日は、東京の森で事業を始めたというご報告と、「小村力革命」の話を。
(この対談は、2013年5月におこなわれました。)
photo by 井島健至

第1回 東京の西から東をみる

竹 本

お久しぶりです。

いとう

久しぶり。今度、東京で会社をつくったって?

竹 本

はい。「東京・森と市庭(いちば)」と言います。
東京でも、小村力革命をおこしていきたいと考えています。
昔、木材、水、農林産物は森から来ていた、
東京全体として循環していた。
東京の森が豊かだから江戸の町も豊かだった、
というのが僕らのひとつの仮説です。
ここ東京で、都市と森は一緒なんだということを
コミュニケーションしていきたいと思っています。

いとう

以前、檜原村の村長も同じようなことを言ってたよ。
彼らの森が東京都民に酸素を供給している。
木材もそうだし、二酸化炭素を固定するということもそうだし、
水や、林産物や農産物もそう。
よくよく地図をみてみればこんなに森をもっている首都は珍しい。

竹 本

そうですね。

いとう

多くの人のイメージの中の「東京」は、
高いビルのある街と、下町と東京ディズニーランドしかない。
でも、東京には街もあるし、森もある。
それが特徴であり資産だよね。

竹 本

以前、せいこうさんとご一緒させていただいた港区のイベントで、
「川の水はなぜ減ったのか」という子どもからの質問がありましたよね。
奥多摩の森が豊かになれば、保水性が高まって、水量があがってくるはず。
そうすると、東京の風景が変わってくると思うんです。
奥多摩では、製材所を再興しながら、建築材や内装材をつくっていきますが、
都心の住宅やオフィスでその材が使われて木の空間が増えていくことが、
森の手入れがすすんでいくことにつながります。
そして、森の保水性が高まり、川の水量が増える。山や里の風景も変わってくる。

いとう

いま気付いたけど、(指でテーブルの上に字を書きながら)
「東京」の「東」という字のなかには「木」が入っているよね。
でも、「東京」のイメージに「木」はない。
これまでイメージから排除してきちゃった。
もともと日本は森や木の文化のはず。
それもひっくるめて「東京」と言える。
東京の西からでてきた木を東京の東の家やオフィスで使っていく。
「使っていて気持ちがいい」そして「それが役に立っている」ということで
東京の木をブランド化していく。
そういうことでしょ?

竹 本

はい。江戸の時代にはあたりまえにやってきたことをとりもどしたい。

いとう

それは僕らが100年200年スパンで東京を考えることに直結するよね。

竹 本

そうなんです。
東京都内に、こんなに豊かな森があるってほんとにおもしろいと思います。

いとう

東京の都市の側から森を考えるのではなく、
森の側から東京を考えるってことか。

竹 本

奥多摩の方の小学校も統廃合していって、どんどん川下にいくんですね。
東側の都市に近い方に近い方にいっている。
そして西側の奥の方の森には人もいなくなって、関心もなくなって、
結果、森を含めた空間全体に手入れがされなくなっている。

いとう

東京の東から西をみるのではなく、西から東をみるってことだね。

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プロフィール紹介

いとうせいこう Seiko Ito

1961年東京都生まれ。作家、クリエイター。早稲田大学法学部卒業後、出版社の編集を経て、音楽や舞台、テレビなどの分野でも活躍。1988年、小説『ノーライフキング』でデビュー。1999年『ボタニカル・ライフ』で第15回講談社エッセイ賞受賞。他の著書に『ワールズ・エンド・ガーデン』、『ゴドーは待たれながら』(戯曲)、『文芸漫談』(奥泉光との共著、後に文庫化にあたり『小説の聖典』と改題)、『Back 2 Back』(佐々木中との共著)などがある。2013年『想像ラジオ』が大きな話題に。

竹本吉輝 Yoshiteru Takemoto

1971年神奈川県生まれ。横浜国立大学国際経済法学研究科修了。外資系会計事務所、環境コンサルティング会社の設立経営などを経て、2009年、株式会社トビムシ設立。10年、ワリバシカンパニー株式会社の設立に参画。13年、株式会社東京・森と市庭を設立、代表取締役就任。専門は環境法。国内環境政策立案に多数関与。同時に、財務会計・金融の知見を加味した環境ビジネスの実際的、多面的展開にも実績多数。立法(マクロ政策)と起業(ミクロ市場)で双方の現場を知る。