ロフトワーク林さんと、わくわくする企みごと。
2013年、奥多摩の森を舞台に事業をはじめた株式会社東京・森と市庭。そこにいちばん最初に遊びに来てくれたのは、ロフトワークというちょっとへんな会社でした。その夏の合宿の様子はロフトワークさんのブログをご覧いただくとして。それから数カ月後、奥多摩の紅葉真っ盛りの秋、ロフトワーク共同創業者の林千晶さんを訪ねました。トビムシとロフトワークという、ひと言では説明しづらい会社の代表同士が、合宿のこと、お互いのこと、これからのことを話しました。
(この対談は2013年11月におこなわれました)
画像提供:ロフトワーク
第4回 クリエイティブの力、愛される場所

ところで、私、前から聞きたかったんだけど、
竹本さんって、法律とか金融とかが専門で、
ビジネスデザインをしている人じゃない?
その竹本さんが、クリエイティブの力を使って、
プロダクトをつくっているのがとても興味深くて。
ビジネスの人は、ふつうはデザインからはすごく遠いのね。
デザインされたものをみても「おもしろいですね、きれいですね」
とはいうけど、あまり関心がないのね。
竹本さんは、なんでクリエイティブの力を信じてるの?
それがすっごい不思議。
前から聞きたいなと思ってたの。

うーん・・・、
まず、大前提として、地域が地域として持続可能であるために、
中央集権的な構造を変えて、地域が自立的に、
自ら、投資家や顧客やビジネスパートナーをつくっていかなきゃいけない
という問題意識があるよね。

うん。

でも、例えば、ものを動かす時に、
鞘(さや)を稼ぐようなやり方では、
量を増やす、タイミングを早くするということでしか競争できない。
それでは、構造が何も変わらない。
そうすると、そこにあるものを活かすしかない。
日本の中山間地に多くある資源は、やっぱり森であり木。
特に木は、もともとは半分が水分だから、
動かす距離を極小化しなきゃいけない。
木を動かす距離がのびたら、その時点で負け。
だからできるだけその土地で価値ある商品にしなければいけない。

なるほどね。

B2C(一般の生活者向けのビジネス)でいうと、
その地域で、触れてもらう、知ってもらう、
楽しんでもらうことができないといけない
森に来てもらえれば、みなさんファンになってくれる。
そうすると、持って帰れるものがほしくなる、
家になにかを持って帰ってもらうと、
森と自分の同期性がキープできる。
マクロ的な構造を変えていくためにも、具体的なモノ、
その地域ならではの、デザインされたプロダクト、サービスが必要。

なるほど、良いデザインじゃないと、いけない。

そうそう。
わくわくする、触りたくなる、持って帰りたくなるもの。

でもさあ、とは言え、国内だと、
単価はどうしてもあがっちゃうじゃない?

それは仕方ないので、一定の時間軸の中で
解消しないといけないと思ってる。
西粟倉でも黒字化に3年かかった。
黒字化のポイントとやってきたことを考えてみると、
まず、通常の流通に乗せると絶対にうまくいかないから、
エンドユーザーのお客さんを増やしていった。
最初はもちろん赤字なんだけど、地域のファンが増えてくると、
それを魅力に感じる企業が一緒にやりたいと言ってきてくれる。
うちの商品や価格ありきで商品や取引を考えてくれる。
一定の時間軸の中で、エンドユーザーが増えていることを背景に、
BtoCはもちろん、BtoB(企業間取引)も増える。ということ。
そこは、どんなにがんばっても、1年じゃ絶対できない、
最短でも2年、3~4年はかかると思う。
エンドの人たちをどう巻き込んでいけるか、という流れだと思う。
プロダクトだけじゃなくて、プロセスもコンテンツだし、
そこに集っているたくさんの人たちの賑わいが価値そのもの。
まさに、ロフトワークが奥多摩で合宿やってくれたみたいに、
クリエイターの人たちの発想とか対話とか。
だから事業の持続可能性にとって、
クリエイターは必要不可欠だと思っている。

なるほど。私もね、
ファブカフェをはじめてから1年半くらい経つけど、
ファブカフェを「レーザーカッターが使える場所」ってだけ
にしなくてよかったなーと思ってたの。
レーザーカッターや3Dプリンターが使えるところって、
以前は全くなかったけど、この1年半の間にものすごい増えた。
いま渋谷だけでも数か所ある。
もし「使える場所」ってだけだったら、
それが全部競合になっていた。
でも、ファブカフェって、
「新しいものを自分でつくってみたい」っていう
「スピリット」なんだよね。「機能」じゃなくて。
だから、単価で比べられない。
「そういうものを愛してますか?」「愛してます!」
って言ってくれる人たちがいっつも来てくれてる。
今日も朝来たら、東急ハンズの袋をもって、
開店前から並んでる子たちもいるの。

へえー、すごい。

去年もそうだったの。この季節になると。
卒業制作とかあるからかな。
スタッフに「寒いから開店前でも入れてあげなよ」
ってルール変えたくらい。
こういうふうに「使える場所」じゃなくて、
「愛される場所」になったのが、すごく嬉しくて。
きっと、西粟倉もそうでしょ?
「木の椅子がほしい」っていう人じゃなくて
「西粟倉の物語」を好きになってくれて、
「そういえば、椅子がほしいな。」って時に買ってくれる。
プロフィール紹介
林千晶 Chiaki Hayashi

ロフトワークの共同創業者、代表取締役。2000年に創業したロフトワークでは、16,000人が登録するクリエイターネットワークを核に、Webサービス開発、コンテンツ企画、映像、広告プロモーションなど信頼性の高いクリエイティブサービスを提供。学びのコミュニティ「OpenCU」、デジタルものづくりカフェ「FabCafe」などの事業も展開している。またクリエイターとのマスコラボレーションの基盤として、いち早くプロジェクトマネジメント(PMBOK)の知識体系を日本のクリエイティブ業界に導入。2008年『Webプロジェクトマネジメント標準』を執筆。米国PMI認定PMP。現在は、米国NPOクリエイティブ・コモンズ 文化担当、MITメディアラボ 所長補佐も務める。
1971年生、アラブ首長国育ち。早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒業。1994年に花王に入社。マーケティング部門に所属し、日用品・化粧品の商品開発、広告プロモーション、販売計画まで幅広く担当。1997年に退社し米国ボストン大学大学院に留学。大学院卒業後は共同通信NY支局に勤務、経済担当として米国IT企業や起業家とのネットワークを構築。2000年に帰国し、ロフトワークを起業。
竹本吉輝 Yoshiteru Takemoto

1971年神奈川県生まれ。横浜国立大学国際経済法学研究科修了。外資系会計事務所、環境コンサルティング会社の設立経営などを経て、2009年、株式会社トビムシ設立。10年、ワリバシカンパニー株式会社の設立に参画。13年、株式会社東京・森と市庭を設立、代表取締役就任。専門は環境法。国内環境政策立案に多数関与。同時に、財務会計・金融の知見を加味した環境ビジネスの実際的、多面的展開にも実績多数。立法(マクロ政策)と起業(ミクロ市場)で双方の現場を知る。