鶴田真由さんと、森で途方に暮れながら。
新緑の奥多摩。女優の鶴田真由さんを森にご案内し、森に囲まれた旧小河内小学校の教室で語らった午後。木造校舎の教室の窓から吹き込む気持ちの良い風を受けながら、絶望的な言葉から始まった対談です。(この対談は2014年5月に行われました。)
写真撮影:井島健至
第1回 会話をするように
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今日はありがとうございました。
実際に奥多摩の森を歩いてもらったんですけど、
人工林の森ってどうでした?
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途方に暮れました。
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(笑)
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(笑)
うーん。これ、どうするんだろうって。
手入れされていない暗くて寂しい森が、
あんなにたくさんある。
森をきれいにしようとして木を切っても
生産的なことにつながらない。
だから、切りっぱなしになる。
人の暮らしは、森から、
自然から離れてしまっている
のではと感じました。
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うん。
真由さんは、世界中のいろんな場所に
行かれているじゃないですか。
例えば、世界の自然豊かな森や島で暮らしている人々は、
自然と共に暮らしている、そういう感じを受けますか?
もちろん、土地土地によると思いますが。
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そうですね。
そこで生きていくための知恵が
ちゃんと残っていると思います。
自分たちの食べる分しか取らないとか。
自然界に存在する万物に対してちゃんと感謝をするとか。
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それは、マニュアルとかルールとかが
あるわけでなく、体験で伝わっているんですよね。
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そうですね。
今年のゴールデンウィークに
アイヌのおばあさんのところに取材に行ったんです。
一緒に時間を過ごしていく中で、
アイヌのスピリットをたくさん感じました。
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アイヌのスピリット。
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80歳以上のおばあちゃんでも、
もうアイヌの生活はしていないんですよ。
だけど、ちゃんと自然と、自然に「お話し」をしている。
森に入る時は森の神様に
「今日は東京からいらっしゃった方々と
山菜をとりに来ました。少し分けてください。
撮影が無事に終わりますように」って。
帰る時には、
「今日はこんなにたくさんの山菜をいただきました。
明日お昼みんなで楽しくご飯が食べられます」
ってご挨拶をしているんです。
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ほんとに自然に、なんですね。
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木を切るときも、その木にはもちろんですが、
周りの木にもお酒をあげて、
「お仲間を切らせていただきます」って言う。
でかけるときには、火の神様にご挨拶をする。
そうすると、火の神さまが
他の神様との媒介役になってくれるんだそうです。
だからでかけない方がいい時はカラスが教えてくれるって。
なにをするにも「お話し」をしているんです。
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自然と会話する気持ちがある。
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そういう心を育てていかなければ
人と森との関係性って
変わっていかないんじゃないかなと思います。
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僕たちも、いろんな人に
森に来てもらう機会をつくっています。
でも、例えば、今日みたいに人工林と天然林をみて、
良い森はきれいで気持ちいい、暗い森はちょっとつらい、
なんていう感覚に気付いてもらっても、
帰りの電車の中でもう忘れさられてしまったり。
だから、暮らしに取り入れてもらいたい、
自然な感覚を持ち帰ってもらいたいと思っているんです。
ユカハリタイルっていう、自分で無垢の木の空間を
つくることができる商品があるんですけど、
「この木はこの前行った森の木だよ」って
言ってもらうように。
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いいですね。
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例えば、知り合いの評判を聞いて欲しくなったとか、
引っ越すから買い足そうっていう時に、
当然、ネットで買うこともできるんだけど、
それがつくられている、木が出される森のある、
西粟倉村まで買いに来てくれる人もいるんです。
それって「お話をする」のに近いじゃないですか。
暮らしの中でそういう森とのつながりがあるといいですよね。
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そうですね。
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「森に入る」って聞くと、
東京以外を想像しちゃう人がほとんどじゃないですか。
今日来てもらった奥多摩の森も「東京都内」なんです。
都心から気楽に来ることができる。
語り掛けるように、訪れることができる。
東京都って島も含めると4割近くは森なんです。
東京には、針葉樹も広葉樹もたくさんあるっていうのを
知っている人がどのくらいいるのかなって思います。
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都心から2時間ぐらい車で走ると
こんなに気持ちいい森がある。
この「気持ち良い」っていうところからも
価値観を揺るがすことが出来るのではないかと思うんです。
人間って身体は正直だから。
この木造校舎に入った時にふっと心が穏やかになりました。
ここで心の病んだ人は育たないだろうなって思うんです。
森や木の気持ちの良さを体感して、
これが本当の気持ちよさなんだってことに気がつけば、
そこから変わっていくんじゃないかな。
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そうですね。
僕たちも「森がこんなに大変だからみんなで救おうよ」
っていうのは、持続可能じゃないと思っています。
それは、暮らしの価値が変わるわけじゃない。
気持ち良いとか、美味しい、きれい、とかがないと
なかなか難しいなって思いますね。
プロフィール紹介
鶴田 真由 Mayu Tsuruta
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女優。ドラマ、映画、舞台、CMと幅広く活動。代表作には、ドラマ「妹よ」、「君と出逢ってから」、「徳川慶喜」、「お仕事です!」、「サトラレ」、映画「梟の城」、「半落ち」、「カーテンコール」などがある。1996年には「きけ、わだつみの声」で日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。近年はドラマ「マルモのおきて」、「酔いどれ小籐次」、映画「沈まぬ太陽」、「さよなら渓谷」、「ほとりの朔子」など話題作に出演。テレビ番組でアフリカの取材をしたことがきっかけとなり、第4回アフリカ開発会議親善大使に任命。著書に古事記をたどった旅エッセイ「ニッポン西遊記 古事記編」(幻冬舎)がある。現在、TOKYO FM「フロンティアーズ~明日への挑戦」にナレーション出演中。
竹本吉輝 Yoshiteru Takemoto
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1971年神奈川県生まれ。横浜国立大学国際経済法学研究科修了。外資系会計事務所、環境コンサルティング会社の設立経営などを経て、2009年、株式会社トビムシ設立。10年、ワリバシカンパニー株式会社の設立に参画。13年、株式会社東京・森と市庭を設立、代表取締役就任。専門は環境法。国内環境政策立案に多数関与。同時に、財務会計・金融の知見を加味した環境ビジネスの実際的、多面的展開にも実績多数。立法(マクロ政策)と起業(ミクロ市場)で双方の現場を知る。