志をともにするたまに会う人との話

鶴田真由さんと、森で途方に暮れながら。

新緑の奥多摩。女優の鶴田真由さんを森にご案内し、森に囲まれた旧小河内小学校の教室で語らった午後。木造校舎の教室の窓から吹き込む気持ちの良い風を受けながら、絶望的な言葉から始まった対談です。(この対談は2014年5月に行われました。)
写真撮影:井島健至

第2回 同期している

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鶴田

身体の方が頭よりも正直だと思うんです。
でも、情報社会に毒されて、身体に素直になれないのかな。

竹本

本来は、最初に感覚ありき、ですよね。
「ひのきのエキスはこういう成分があるから使う」
っておかしいじゃないですか。
気持ちいいから使う。
その根拠が求められるときはじめて、
科学的に証明する。

鶴田

サプリメントとかも、
こんな成分があるからとりましょう、とかね。
もっと自分の身体と対話をした方がいいと思うんです。

竹本

森っていうのは、人を含めた自然の在り様、
そのものだと思っていて。
いま、森と人の距離が物理的にも精神的にも
離れていてしまっているから。
その双方の意味で、もっと近づくといいなと思います。

鶴田

森と人との距離が近づくには、
「畑を耕す」みたいな体験が必要ですよね。
自然と共に過ごす時間が心を耕す。

竹本

そうですね。
うちの家の庭でも畑をやっているんですが、
自分たちの食べ物の一部を自分たちで作る。作れる。
だけど、他にもっとおいしく作ることができる人がいたり、
僕が他のことに時間を使いたいって思ったら、
他の人に作ってもらって、何かと交換したらいい。
その手段のひとつとして貨幣がある。
でも、自分たちで作れる、っていう体験があるから、
実感のともなったやりとりができる。
交換もそう。購買もそう。
そういう意味もある。

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鶴田

それでも、森を理想的な状態にまで戻すには
長い時間がかかるでしょうね。

竹本

そうですね。時間はかかると思います。
でも、その少しずつかもしれない変化を、
この廃校から見える森や湖の風景を、
定点観測できたらなって思ってるんです。
いまは鬱蒼とした森に囲まれていて、
水量も昔と比べると減っていますけど。
これから人の手が入って、明るくなって、
広葉樹も自生したり植林したりして、
深緑の中の黄緑がだんだん増えていく。
すると、水量が増える、風景が変わる。
それが、全景、オムニスケープだ、って。
それは、人の森に対する気持ち、
自然に対する気持ち、もっと言えば、
暮らしそのものの認識が変わる、っていうこと。
都市の人の気持ちが変わると森の風景が変わる。
アンケート調査するより明確にわかると思います。

鶴田

そうですね。

竹本

都市がツルツルテカテカで無機質なものになって、
その現れのひとつとして、森は鬱蒼と暗くなっている。
僕らは「都市と森は同期している」と言っています。
都市の方が豊かだから森を助けましょう、ということではない。
都市がつらい状況、それを森は現しているだけ、と。

鶴田

本当にそうですね。
都会に住んでいる人たちは魔法にかかっていると思います。
身体は自然の豊かさを求めているのに
自分たちはそうじゃないと思っている。
その魔法を解かないと、自分たちが森と同期している
ということに想像が及ばないのではないでしょうか。

竹本

僕らの「東京・森と市庭」に出資してくれている
R不動産という会社があるんですが、
そこは「空間の編集権を取り戻そう」って言っていて。
最近の都市はイケてない、イケてないから地域で暮らす
っていうのは、地域にも失礼だなって思うし、
地域より都市の方がいい、そういう消極的な意味じゃなく
本当に東京の都心部、都市が好きな人だっている。
実際、代表の林くんは都市が好きだと言い切っています。
だけど、いまの都市生活者は空間の編集権を放棄している。
建築家、工務店やハウスメーカーやディベロッパー、
等々に、そのすべてを委ねている。無自覚に。
そもそも編集権を自分が持ってること自体忘れちゃって。
だから、自分が過ごす空間を、自分でDIYしたり、
リノベーションしたり。そういうことを彼らは提案してる。
それは「気持ち良い空間は自分で創造できる」ってこと。
空間の編集権っていうのは、なんでも自分でつくる、
ということじゃなくて、誰かに任せたいなら任せればいい。
でも、編集権自体は自分自身が持っているんだ、
そう思えるように、もう1回、認識を変えていこう、と。
僕は、その「編集権」を「東京の空間の編集権」に広げたい、
都民が「東京の空間の編集権」を取り戻したらいいと思ってて。
「東京」には都市もあるし森もある。それ全体で東京だ、って。
どうして、都市でリノベーションやってる会社と森の会社が
いっしょにやってるの、って思われるかもしれないけど、
そういう思いでやってるんです。

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鶴田

素晴らしいですね。
「途方に暮れた」なんて
絶望的な言葉から入りましたけど(笑)

竹本

(笑)

鶴田

でも、それが都市の心の現れってことですよね。
部屋だってそうじゃないですか。
散らかっていると気が澱む。
手入れされてない森も同じように気が滞っているように感じました。
光と空気と水が足りないなって。

竹本

はい。

鶴田

まずは、家族で森に遊びに行く。
無垢の木を床にならべてみる。
そんなところから始めてもらえるといいかもしれませんね。
体感しないと、心が動かないから。

竹本

僕らの商品を買ってくれるお客さんがいるのも、
体感がともなっているからだと思う。
他に、価格的に、機能的に優れているものはいくらでもあるけど、
それらは、呼吸していない。死んでいる。
本当の木や森、自然を体感ができない。
やっぱり、「体感できる」ことが大事。

鶴田

そうですね。
本当は身体も自然の一部なので、
身体が喜ぶっていうことが、大事ですよね。

竹本

はい。またぜひ、森に、
体感しにきてください。

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おわり

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プロフィール紹介

鶴田 真由 Mayu Tsuruta

女優。ドラマ、映画、舞台、CMと幅広く活動。代表作には、ドラマ「妹よ」、「君と出逢ってから」、「徳川慶喜」、「お仕事です!」、「サトラレ」、映画「梟の城」、「半落ち」、「カーテンコール」などがある。1996年には「きけ、わだつみの声」で日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。近年はドラマ「マルモのおきて」、「酔いどれ小籐次」、映画「沈まぬ太陽」、「さよなら渓谷」、「ほとりの朔子」など話題作に出演。テレビ番組でアフリカの取材をしたことがきっかけとなり、第4回アフリカ開発会議親善大使に任命。著書に古事記をたどった旅エッセイ「ニッポン西遊記 古事記編」(幻冬舎)がある。現在、TOKYO FM「フロンティアーズ~明日への挑戦」にナレーション出演中。

竹本吉輝 Yoshiteru Takemoto

1971年神奈川県生まれ。横浜国立大学国際経済法学研究科修了。外資系会計事務所、環境コンサルティング会社の設立経営などを経て、2009年、株式会社トビムシ設立。10年、ワリバシカンパニー株式会社の設立に参画。13年、株式会社東京・森と市庭を設立、代表取締役就任。専門は環境法。国内環境政策立案に多数関与。同時に、財務会計・金融の知見を加味した環境ビジネスの実際的、多面的展開にも実績多数。立法(マクロ政策)と起業(ミクロ市場)で双方の現場を知る。