志をともにするたまに会う人との話

パタゴニア辻井さんと、「満足できない問題」と「希望」を語る。

この秋創業40周年を迎える、アメリカ発祥でアウトドアウェアの製造と販売をするパタゴニア。2012年12月には、パタゴニア京都ストアの床の一部にニシアワーのプロダクトを採用していただきました。その以前から親しくさせていただいているパタゴニア日本支社長の辻井隆行さんと、東京の森でなにができるかをお話しにいきました。
(この対談は、2013年6月におこなわれました。
photo by 井島健至

第4回 カヤッカーが気にする「不自然」なもの

竹 本

そして、パタゴニア京都店でニシアワーの間伐材を使ってもらったように、
多くの人の目に触れる、手に触れる、知ってもらう機会を増やしていきたい。

辻 井

鎌倉の会議室をあたらしく50坪くらい借りて改装するんですが、
そこは、ほぼ全面、ニシアワーの木でユカハリしますよ。

竹 本

ほんとうにありがたいです。
これまで、ニシアワーの商品は、パタゴニアさんのような
感度の高いお客さまがたくさんいる東京で使っていただいていたのですが、
大阪や京都で使ってもらえるようになってきた。
東京で使っていただける方には、やっぱりオリジンの森に触れてもらいたい。
   

辻 井

それがいいですよね。

竹 本

「西粟倉村もがんばってるけど、東京でできたらもっといいのにね」
とみなさんから言われていたので、それには応えていきたい。
なにより、東京だったら、気軽に森に来てもらえるじゃないですか。

辻 井

そうですね。行きやすい。いろいろとイベントできそうですね。
午前中にリバーカヤックやって、午後から森歩き、川と森のつながりツアーとか。

竹 本

いいですね。
いまは森の保水力がなくなって多摩川水系の水量が減ってきていて、
さらに雨が降ると土砂は流出して川底があがってという問題がありますが、
森を手入れすればするほど空間が明るくきれいになって、
森の保水性も高まって、当然に水量が増えていく、
結果、川の地形も再生されるはずなんです。

辻 井

いや、ほんとにそのとおりで、カヤックって、
川の地形とか水量が大事なんですよ。
くるくるまわったりする技を競う「ホール」と呼ばれるような場所って、
水量が少なくなると出来なくなる。
岩や段差で水が逆流する場所でサーフィンをして遊ぶ
ウェーブにとっても水量が大事。
それで、いま思えば、これってほんとに不自然だな、と思うんですが、
リバーカヤックする人って川の水量を予想するのに、
何をチェックすると思います?
降雨量じゃないんですよ。
   

竹 本

わからないです。

辻 井

サーファーが天気図を携帯電話でチェックするように、
リバーカヤックする人の多くは、
「ダムの放水量」をチェックしているんですよ。
「今日はダムの放水が何トンだから、水量があっていいですよ」とか言ってる。
自然の中で楽しむ人がそういうものをチェックしているって不自然ですよね。

竹 本

それって、全体的構造的な話しですよね、とてもおもしろい。
自然を愉しむために感知すべきものが変わってきているんですね。

辻 井

そうですね、なんていうか、
ねじれたインディケーターだなと。
今では不自然だと思いますが、当時は僕もそれが当たり前だと思って
仲間同士で情報交換したりしていた。
でも、森が健全になったら、降雨量と川の水量、
その相関がちゃんとつながるじゃないですか
そうするとリバーカヤックもほんとに自然を楽しむスポーツになる。

竹 本

そうですね。

辻 井

水で思い出したんですが、
僕たちは今水資源の問題を抱えています。
地球上の水は、97%が海水で、2%が地下水と氷河、
アクセスできる真水はたった1%しかないと言われている。
そのわずかな水を動植物が分けあって暮らしているんですが、
人間がその水を使い過ぎている。
川の水がなくなれば、淡水魚が生きられなくなって、
当然人間も影響を受けることになります。

竹 本

最終的には人間にかえってくる。

辻 井

そう。
でも、普段東京で自然と分断された生活をしていると
そういうことって実感しにくいですよね。
僕も知らなかったんですけど、
グランドキャニオンで有名なコロラド川という川がありますよね。
カリフォルニアを始め、ネバダやアリゾナなど4州の
工業、農業、生活用水をまかなっている。
ところが、その川が10年以上前から海に注いでいないそうなんですよ。
100km以上も手前で水が途絶えて、
そこから先は乾燥してひび割れた台地が河口まで続くんです。
中国の5大河川も21世紀半ばまでには海にいかなくなるだろう、
という学者さんもいて、ほんとに水をめぐる戦争も起きる可能性もある。

« 前の回次の回 »

プロフィール紹介

辻井隆行 Takayuki Tsujii

パタゴニア日本支社長。1968年東京生まれ。91年早稲田大学教育学部卒。卒業後、日本電装(現デンソー)勤務。1997年、早稲田大学大学院社会科学研究科修士課程修了。修士課程を修了した1997年、シーカヤック専門店「エコマリン東京」への就職と同時にアウトドアスポーツを始める。1998年夏、3ヶ月の休暇を取得してカナダ西海岸に遠征。帰国後は、冬は長野県でスキーパトロール、夏はカナダでシーカヤックガイドなどをして過ごす。1999年、パートタイムスタッフとしてパタゴニア東京・渋谷ストアに勤務。2000年に正社員となり、パタゴニア鎌倉ストア勤務を経て、マーケティング部に異動、「プロセールス・プログラム」「アンバサダー・プログラム」などの新規プロジェクトを立ち上げる。その後、ホールセール・ディレクター(卸売り部門責任者)、副支社長を歴任し、2009年より現職。2003年にグリーンランド、2007年にはパタゴニアに遠征し、シーカヤックと雪山滑降を楽しむなど自然と親しむ生活を続ける。

竹本吉輝 Yoshiteru Takemoto

1971年神奈川県生まれ。横浜国立大学国際経済法学研究科修了。外資系会計事務所、環境コンサルティング会社の設立経営などを経て、2009年、株式会社トビムシ設立。10年、ワリバシカンパニー株式会社の設立に参画。13年、株式会社東京・森と市庭を設立、代表取締役就任。専門は環境法。国内環境政策立案に多数関与。同時に、財務会計・金融の知見を加味した環境ビジネスの実際的、多面的展開にも実績多数。立法(マクロ政策)と起業(ミクロ市場)で双方の現場を知る。