パタゴニア辻井さんと、「満足できない問題」と「希望」を語る。
この秋創業40周年を迎える、アメリカ発祥でアウトドアウェアの製造と販売をするパタゴニア。2012年12月には、パタゴニア京都ストアの床の一部にニシアワーのプロダクトを採用していただきました。その以前から親しくさせていただいているパタゴニア日本支社長の辻井隆行さんと、東京の森でなにができるかをお話しにいきました。
(この対談は、2013年6月におこなわれました。
photo by 井島健至
第3回 構造上無責任でいられる仕組み
トビムシの「共有の森ファンド」をやったときもそうなんですよ。
投資してくれた人はみんな自分が事業に共感してコミットしたから、
買ってくれる、宣伝してくれる。
そうですね。
それって地方の問題の構造を変えることにもつながっているんです。
地方で何かやる時って「過疎債」を使うのがいちばんいいんですよ。
だから、例えば、トビムシが西粟倉でやっているような林業機械を買おうとしたら、
ファイナンス上、過疎債を使って買うのが一番いい。
へえ、そうなんですか。
7割が交付金で戻ってくる。もちろん3割は借金なんですけど。
要は、借金した瞬間に元本が7割減る。7掛けではなく3掛け。
なので、投資対効果を考えずに借金してしまいがちなんです。
交付金の元はもちろん国のお金ですから、
地方でそれを自転車操業的に使い続けるってことは、
国全体でみると負の方向にいっているっていうのをみんなわかっている
でも、地方では議会を含めて反対する人はとても少ない。
使うことを控えるインセンティブが働かないまま、
正統なチェック機能が働かないまま、使ってしまう。
国も、手続きに則るカタチで、交付金を出す。
使えば使うほど、これは全体として絶対によくない、と、
みんなどこかで思っている。
負のスパイラルですね。
はい。
でも、僕らは、林業機械を買うのに、
過疎債を提案せず、マイクロファイナンスを提案して、
結果、400人以上の人から出資してもらった。
真逆のアプローチですね。
そうなんです。
それは、全部返さなきゃいけない。
村民以外の大多数をまきこんでやる。
顔も名前もわかっている多くの人からお金をだしていただいている。
これは絶対に失敗しちゃいけない、という責任感が生まれる。
そういうことの集合、集合的運動が、正のスパイラルをうみだしていく。
いまの社会では、構造上無責任でいられる仕組みがあるので、
その構造から変えていきたい、いかなければいけない、と。
「みんなに参加してもらうこと」
「そのみんなが満足できる仕組みをつくること」
で、その構造を変えていきたい。
プロフィール紹介
辻井隆行 Takayuki Tsujii
パタゴニア日本支社長。1968年東京生まれ。91年早稲田大学教育学部卒。卒業後、日本電装(現デンソー)勤務。1997年、早稲田大学大学院社会科学研究科修士課程修了。修士課程を修了した1997年、シーカヤック専門店「エコマリン東京」への就職と同時にアウトドアスポーツを始める。1998年夏、3ヶ月の休暇を取得してカナダ西海岸に遠征。帰国後は、冬は長野県でスキーパトロール、夏はカナダでシーカヤックガイドなどをして過ごす。1999年、パートタイムスタッフとしてパタゴニア東京・渋谷ストアに勤務。2000年に正社員となり、パタゴニア鎌倉ストア勤務を経て、マーケティング部に異動、「プロセールス・プログラム」「アンバサダー・プログラム」などの新規プロジェクトを立ち上げる。その後、ホールセール・ディレクター(卸売り部門責任者)、副支社長を歴任し、2009年より現職。2003年にグリーンランド、2007年にはパタゴニアに遠征し、シーカヤックと雪山滑降を楽しむなど自然と親しむ生活を続ける。
竹本吉輝 Yoshiteru Takemoto
1971年神奈川県生まれ。横浜国立大学国際経済法学研究科修了。外資系会計事務所、環境コンサルティング会社の設立経営などを経て、2009年、株式会社トビムシ設立。10年、ワリバシカンパニー株式会社の設立に参画。13年、株式会社東京・森と市庭を設立、代表取締役就任。専門は環境法。国内環境政策立案に多数関与。同時に、財務会計・金融の知見を加味した環境ビジネスの実際的、多面的展開にも実績多数。立法(マクロ政策)と起業(ミクロ市場)で双方の現場を知る。