パタゴニア辻井さんと、「満足できない問題」と「希望」を語る。
この秋創業40周年を迎える、アメリカ発祥でアウトドアウェアの製造と販売をするパタゴニア。2012年12月には、パタゴニア京都ストアの床の一部にニシアワーのプロダクトを採用していただきました。その以前から親しくさせていただいているパタゴニア日本支社長の辻井隆行さんと、東京の森でなにができるかをお話しにいきました。
(この対談は、2013年6月におこなわれました。
photo by 井島健至
第2回 みんな「ちゃんとしたい」
僕たちは、製品をつくる上で、
出来るだけ環境負荷を少なくしようと努力しています。
例えば、水の使用を最小限に抑えるようにしようというのがその一例です。
同時に、サプライチェーンにも配慮して、
働いている人にも、工場のある地域にも正当な対価をお支払して事業活動をする。
価格競争に勝ち残るために、安全や人権にしっかりと配慮することが
出来ない工場が多くある国や地域で、
パタゴニアがそんな「良い条件で仕事をくれる」っていうことがわかると、
じゃあ、他の工場もそうしよう、ちゃんとしよう、と思う。
はい。
本来、人間には働く従業員や地域社会に対して、
「ちゃんとしたい」という願望を持っているはずです。
ところが、契約競争に勝たなければならないから、それができない。
それが常態化して、メーカーは正当とは言い難い条件を工場に課す。
そんなマイナスのスパイラルがあるから、
なかなかサプライチェーンが抱える問題は解決しない。
でも、僕たちは、環境や人権に対して配慮しているサプライチェーンと
適正な取引を継続することで、ポジティブなスパイラルをつくっていきたい。
お客さまだって、自分の大切なお金が
ポジティブなことに使われているってわかれば、
そういうお金の使い方を誇らしい、気持ちが良いと感じてくださる
のではないかと思っています。
はい、わかります。
でも、アパレル業界では、それを実現するのは、なかなか簡単なことではありません。
食品とか化粧品とかは、直接口に入れたり、肌につけたりするから、
気にされる方も多いし、選択肢も豊富だから調べやすいし、選びやすいですよね。
それでも、お腹が空いている時にレストランに入って、
サプライチェーンのことまで考えるのは大変ですよね(笑)
そういうのはジレンマじゃないですか。僕もジレンマがある。
食品や化粧品ですら難しい問題ではありますけど、アパレルも含めて、
あらゆる場面で、そういうジレンマ、ストレスがない社会になるといいですよね。
本当にそうですね。
今は、なにもかもが、競争原理だけで決められてしまって、
消費者も企業人も、そもそもなかなか満足が得られない構造
になってるんじゃないですかね。
例えば、要領良く立ち回る人が出世して、
正直に誠実に頑張っている自分はどうして評価されないんだろう、とか、
みんな、いまの現代社会の抱える問題を
いろんな場面でいろんな形で感じているはずですよね。
近代合理主義っていうのは、あらゆるものを最小限の単位まで分割して、
数値化して、比較して、その優劣を決めるというパラダイムで、
その中では、誠実さとか、そういう数値化できないものは切り捨てられてきた。
僕も、パタゴニアのブランドを身に付けてて、
「あ、パタゴニアですか?」って言われたら、
いまの話のようなうしろにあることも含めて、
胸をはって「そうですよ」と言いたくなる(笑)
デザイン性とか人気があるという満足度とは別の、
積極的に「そうです、パタゴニアです。」って答えたくなる、
数値化できない、なにか、がある。
僕も、普段はもちろん自社製品を着ているんですけど、
今日は事情があってジャケットを着ています(笑)
これはピープルツリーというブランドの製品ですが、
バングラディッシュの女性にきちんとした対価を支払って、
彼女たちが手織で作っていて、
裏地にはサリーをリサイクルした素材まで使われています。
へえ、いいですね。っていうか、ステキです。
いいでしょう。
ほら(笑)、そういうのって、うれしいじゃないですか。
しゃべりたくなるじゃないですか。
実はこのジャケットに限って言えば、
ピープルツリーの創業者の方に頂いたんですが、
お金を払って買っていたとしても、さらに人にも宣伝したくなる。
「お金で買えない満足」とかよく言いますけどね、
そういうこととも違う。
お金で買って満足してるし、
満足してるから、しゃべりたくなる。
いい想いって共有したくなりますよね。
プロフィール紹介
辻井隆行 Takayuki Tsujii
パタゴニア日本支社長。1968年東京生まれ。91年早稲田大学教育学部卒。卒業後、日本電装(現デンソー)勤務。1997年、早稲田大学大学院社会科学研究科修士課程修了。修士課程を修了した1997年、シーカヤック専門店「エコマリン東京」への就職と同時にアウトドアスポーツを始める。1998年夏、3ヶ月の休暇を取得してカナダ西海岸に遠征。帰国後は、冬は長野県でスキーパトロール、夏はカナダでシーカヤックガイドなどをして過ごす。1999年、パートタイムスタッフとしてパタゴニア東京・渋谷ストアに勤務。2000年に正社員となり、パタゴニア鎌倉ストア勤務を経て、マーケティング部に異動、「プロセールス・プログラム」「アンバサダー・プログラム」などの新規プロジェクトを立ち上げる。その後、ホールセール・ディレクター(卸売り部門責任者)、副支社長を歴任し、2009年より現職。2003年にグリーンランド、2007年にはパタゴニアに遠征し、シーカヤックと雪山滑降を楽しむなど自然と親しむ生活を続ける。
竹本吉輝 Yoshiteru Takemoto
1971年神奈川県生まれ。横浜国立大学国際経済法学研究科修了。外資系会計事務所、環境コンサルティング会社の設立経営などを経て、2009年、株式会社トビムシ設立。10年、ワリバシカンパニー株式会社の設立に参画。13年、株式会社東京・森と市庭を設立、代表取締役就任。専門は環境法。国内環境政策立案に多数関与。同時に、財務会計・金融の知見を加味した環境ビジネスの実際的、多面的展開にも実績多数。立法(マクロ政策)と起業(ミクロ市場)で双方の現場を知る。