パタゴニア辻井さんと、「満足できない問題」と「希望」を語る。
この秋創業40周年を迎える、アメリカ発祥でアウトドアウェアの製造と販売をするパタゴニア。2012年12月には、パタゴニア京都ストアの床の一部にニシアワーのプロダクトを採用していただきました。その以前から親しくさせていただいているパタゴニア日本支社長の辻井隆行さんと、東京の森でなにができるかをお話しにいきました。
(この対談は、2013年6月におこなわれました。
photo by 井島健至
第1回 満足できない問題
今度、奥多摩の方で事業をされるんですって?
はい。今日はその話をあらためてできればと。
奥多摩、最近は行ってないですけど、7‐8年前は毎週通ってましたね。
森ではなく、川の方の遊びですけど(笑)
リバーカヤックで。
はい、青梅とかは役場に勤めてリバーカヤックをやってる方も多いですよ。
御嶽はカヌースラロームという競技の日本の聖地みたいなところなんです。
有名な選手もたくさん輩出していて。
水周りを含めて、東京の森は物理的精神的に奥が深いです。
そんなこともあってか、奥多摩で始まる新しい事業には、
中沢新一さんにも興味をもってもらっていて。
中沢さんの考えには共感するところが沢山あります。
中沢さんいわく、いまの経済は、貨幣を介して単に交換する、
という非連続的な取引では、それを何度くり返したとしても、
作り手も使い手も、誰も満足できない、と。
何かを購入するっていう行為は、
「お金を払ったんだから、モノを買う、サービスを受ける」
というだけじゃなく、
本来は、人と人、人とモノとが分けられていない、
とても連続的な行為なんじゃないか。
買い手であれば、お金を支払ってなお
売り手に対して何かを施したり、何かを渡したりする。
それが、本来の交換取引なんじゃないか、商いなんじゃないか
とおっしゃられているんですね。
そういう、人と人、人とモノとが完全に分断されてしまった、
グローバル金融資本主義の現代で、貨幣中心的、
もっといえば、貨幣に従属した価値観が蔓延る中で、
トビムシが西粟倉村でやっていることって、
お客さんを相当巻きこんで、
お客さんも喜んでそれをしているのがおもしろい、
と興味をもっていただいたところからのお付き合いなんです。
なるほど、おもしろいですね。
でも、まさにパタゴニアさんもそうだと思うんですよ。
そうですね。
「モノを売る企業」と「お客様」って言ってしまうと、
お客としてお金を払って買ってるのに、
その上なにか企業に差しださなきゃいけないの?
ってなるかもしれませんが、
でも、ホントはそうした営みが、
現代の社会が抱えている「問題」を
解決する力を持っていると思うんですよ。
「問題」。
はい。その「問題」があるから、
お客さんたちは、いくらモノを買っても
満足を得ることができないという構造がある。
それを、多くの人は無意識にわかってるんじゃないか、と。
はい。
ぼくたちのビジネスも、製品を買ってくださっている
お客さま全員が全員、製品の背後にある
想いやストーリーを知って下さっているか、
というと、もちろんそうではないと思います。
パタゴニアでは、まずは製品そのものの
クオリティを最高のものにすることを目指しています。
でも、気に入って何度か買っていただくうちに、
そのバックグラウンド、ストーリーもわかっていただければと思っています。
プロフィール紹介
辻井隆行 Takayuki Tsujii
パタゴニア日本支社長。1968年東京生まれ。91年早稲田大学教育学部卒。卒業後、日本電装(現デンソー)勤務。1997年、早稲田大学大学院社会科学研究科修士課程修了。修士課程を修了した1997年、シーカヤック専門店「エコマリン東京」への就職と同時にアウトドアスポーツを始める。1998年夏、3ヶ月の休暇を取得してカナダ西海岸に遠征。帰国後は、冬は長野県でスキーパトロール、夏はカナダでシーカヤックガイドなどをして過ごす。1999年、パートタイムスタッフとしてパタゴニア東京・渋谷ストアに勤務。2000年に正社員となり、パタゴニア鎌倉ストア勤務を経て、マーケティング部に異動、「プロセールス・プログラム」「アンバサダー・プログラム」などの新規プロジェクトを立ち上げる。その後、ホールセール・ディレクター(卸売り部門責任者)、副支社長を歴任し、2009年より現職。2003年にグリーンランド、2007年にはパタゴニアに遠征し、シーカヤックと雪山滑降を楽しむなど自然と親しむ生活を続ける。
竹本吉輝 Yoshiteru Takemoto
1971年神奈川県生まれ。横浜国立大学国際経済法学研究科修了。外資系会計事務所、環境コンサルティング会社の設立経営などを経て、2009年、株式会社トビムシ設立。10年、ワリバシカンパニー株式会社の設立に参画。13年、株式会社東京・森と市庭を設立、代表取締役就任。専門は環境法。国内環境政策立案に多数関与。同時に、財務会計・金融の知見を加味した環境ビジネスの実際的、多面的展開にも実績多数。立法(マクロ政策)と起業(ミクロ市場)で双方の現場を知る。