letter
 — Vol.05

竹本吉輝から林厚見氏へ3

October 4th, 2013

林くん、
先の書簡、その冒頭にあった、「お互いの頭の中の、すごく感度が高くてキモチいいところを順番にコスり合うような関係というか相性」ってテクスト、ちょっと面白い。その面白いという(あるいは他の心象的)感覚とともに、自ら解釈し展開(転回)し返しを詠う、それが往復書簡(連歌)。さらに深掘ると、自らが持ち合わせない言語表現でありながら、その通り!と即座にそれでいてゆっくり得心できる感覚、そして、改めて相手のキャラや同キャラから発せられる言語に新しさを発見する感覚、それらが、連続的で刹那的な(主に対面の)口述コミュニケーションでは得られない、独りの綴りモノ(に「いいね!」を押す、押してもらうこと)では決して得られない、まさに往復書簡の妙、なのだと思う。その点も、(やっぱり)ちょっと面白い。

ところで、洒落た文通モード、「君はあのときこういったよね」的なものではないけれど、それこそ、はじめての語らい@渋谷で聴いた、卒業設計の物語(歌)はよくよく覚えていて。その内容とともに、他人との事実上はじめての対話シーンで、自らの挫折的感傷的語らいができる(もちろん、明るくポップな語り口なのだけれど)、そのキャラへの驚きも、よくよく。実際、はじめて話すまでは、「元マッキンゼー社員が語る」的キャラを(出版社がそれゆえ企画する読者ターゲット像よろしくな感じで)イメージしていたのだから、なおさらよく。
でも、ピュアな宇宙少年だったって告りは極々最近だったね。僕も、昴(すばる)のことを「プレアデス星団」と呼び、発射直前の(宇宙戦艦ヤマト)波動砲を想わせるオリオン座大星雲を「M42※」と呼ぶ程度には(あと北極星がこぐま座α星ポラリスであることを知ってる程度には)少年時代に星を眺めていたけれど、林くんは、「乗鞍岳の山頂付近に自然や夜空と対峙するためのホテルというのを企画」していたというのだから、その宇宙少年ぶりは比べるまでもない(「途中で『建てなくていいじゃん、自然のままでいいじゃん』と頭が混乱して失敗に終わり」という告りは、改めて泣ける)。

そんな宇宙少年が大人(?)になって、「日本の町のフツーの家や店の空間が、これ以上ペラペラでツルツルになってしまって、“触ってキモチいい”、“感じる空間”じゃなくなっていったら、まずい。何かが死んじゃう。それに対して反撃をしていこうと」思うに至ったこと、思い至ったそれからの(未来の)こと、については、この書簡空間でも、そして奥多摩の地における古民家空間でも、どんどん深掘りしたいし、実践的協働も重ねていきたい、と思っていて。
実際、乗鞍岳山頂ほどではないけれど、否、彼の地とは地理的場所的意味を異にする空間として、自然と夜空と対峙する、真摯に向き合う、そうできる(そうすべき)空間が奥多摩の其処彼処に在るのだから。そして、同空間を美しく豊かにすることと同期する街空間が都心の其処彼処に在るのだから。それ(こそ)が、Tokyoなのだから。

最後に、それら先駆けとしての「青山」プロジェクト(近く公表。その後、同過程を含め、いろいろ語らいたく)はThanxでした。そして、奇しくも字面を同じくする、奥多摩の「青山居(せいざんきょ)」プロジェクトも、歓びと愉しみ(林流「快楽」)をもって、“触ってキモチいい”、“感じる空間”創りをともに手掛けてもらいたく。

では、遠くない再会を期して。いずれ森であれ街であれ、東京の何処かで。

※書簡同封の写真をよく注視してもらうと、オリオン座の三つ星の南に光るM42が確認できます(ちなみに、僕の大好きなオリオン座の暗黒星雲「馬頭星雲」は確認できません。あしからず)。

photo by 井島健至

プロフィール紹介

林厚見 Atsumi Hayashi

株式会社スピーク共同代表。「東京R不動産」では主に事業面のマネジメントを担い、他に不動産開発・リノベーション等における企画・プロデュース、新島のカフェ・宿「saro」の経営などを行う。1971年東京生まれ。東京大学工学部建築学科、コロンビア大学建築大学院不動産開発科修了。マッキンゼー、不動産ディベロッパーを経て2004年吉里裕也と株式会社スピークを設立。共編著書に「だから、僕らはこの働き方を選んだ」「東京R不動産2」「toolbox」等。

竹本吉輝 Yoshiteru Takemoto

1971年神奈川県生まれ。横浜国立大学国際経済法学研究科修了。外資系会計事務所、環境コンサルティング会社の設立経営などを経て、2009年、株式会社トビムシ設立。10年、ワリバシカンパニー株式会社の設立に参画。13年、株式会社東京・森と市庭を設立、代表取締役就任。専門は環境法。国内環境政策立案に多数関与。同時に、財務会計・金融の知見を加味した環境ビジネスの実際的、多面的展開にも実績多数。立法(マクロ政策)と起業(ミクロ市場)で双方の現場を知る。