letter
 — Vol.08

中渓宏一氏から 竹本吉輝へ4

December 6th, 2013

たけちゃん

もう師走ですな。ここ、小樽はすっかり雪景色。はい、たけちゃんの予想通り、最近は北の大地をあちこちと旅させてもらっていました。室蘭、洞爺湖、三笠、旭川、札幌。着地点探しの途上。その辺の話はまた詳しくするとして。それにしてもこの往復書簡、やってみると面白いね。新感覚。

僕はブログで日記を書き続けているんだけど、毎回書きながら悩むのが、「一体、僕は誰に向かってこの文章を書いているのか?」ってこと。そもそも「です、ます調」で書くのか、「~なのだ。」的な個人の主張的な書き方で行くのか、或は架空の誰かに向かって「~なんだよね。」と親しみを込めて書くのか。毎回、そこから悩んじゃう。という訳で、そのスタイルも毎回違ったりする訳だけど、この往復書簡に関しては、そこを悩む必要がない。純粋に、たけちゃんに伝えたいことを書く。でもこれが公開されるから人様の目もあるよな。なんて意識しながら。

そう考えると、facebookって、友達同士の往復書簡大公開サイト的な側面もあるんだね。とは言え、自分的にはこの往復書簡に込めるメッセージには気合いを入れているつもりで、その気合いをfacebook上で常時出し続ける自信が無く、所謂SNSとは程よい距離感を置いている訳であります。

そういう意味では、二年間のパタゴニアでの暮らしが、その、ネット上だけで無く、あらゆるものとの「距離感」ってものを見直す良い機会をくれていた。なにせ、僕が居たラフンタという小さな集落はフィヨルドに分断された陸の孤島な訳だから、基本的には集落の住民1000人程しか日々顔を合わす人は居なくて、そこに「自転車で南米大陸縦断中です。」なんて旅人が登場すると、ストーブの炎を眺めながら一晩、じっくりと旅の話を聞かせてもらうのが贅沢な非日常であり、ましてや、遠く日本から友達が来てくれちゃった日には、そんな日々が一週間位続いちゃって、そりゃもう修学旅行的な、絶え間ない、只々楽しい時間が流れる。出逢いの絶対数は段違いに少ないけど、その一つ一つが濃密なものになってくると、むしろ自分が求めているコミュニケーションのスタイルはこちらかな。なんて思えて来て。

だから、先日の隠岐島は海士町訪問は、ぼくにとってはなんとなくパタゴニアを思い出すノスタルジックな時間でもあった。あの夜、たけちゃん宅にあんなに沢山の人が集まってくれたのは、はっはっは。勿論わたくしの絶大なる人気の成すところでございますが、島の仲間同士のコミュニケーションが、仲間の絶対数が少ないことも手伝って、ばっちり密に取れているが故の突発的な夜の大集会。の、酒の肴がたまたま僕であっただけで、そんな楽しい宴を垣間みてしまうと、もうそれだけで完全に海士町ファンになってしまった訳です。

そう、何を書きたかったかと言うと、量より質ってことかな?

中学校の頃はあれ程魅力的だった、藤沢シェーキーズのピザ食べ放題に今では見向きもしない様に、歳を取るっていうのは、何事においても量より質を取る様になることなのかもね。

そういう意味では、たけちゃんのお宅に三泊もさせて頂いた海士町の日々は、どこを切り取っても、上質な時間がゆ~ったりと流れる幸せな一時でございました。特に、かのこちゃんとの時間は、文句無しに。

で、この上質をネット上のコミュニケーションで実現しようと思うと、確かにその内容が問われる訳だけど、その内容の伝え方、つまり日本語力も問われるよね。とかく何事も「本気で凄い」の二言で纏めてしまいがちな僕が最近買った本がずばり「日本語の練習問題」。著者の出口さんは、日本語には「美しい日本語」と「美しくない日本語」があって、美しい日本語というのは、正しい日本語であるのは勿論、人の心の奥深くに届き、感情を動かす力を持った日本語のことを指す。と書いてる。そして、最近の日本語はとかく乱れていて、日本語が乱れると、日本も乱れる。と。

反省しちゃうね。もう、「本気で凄い」は、本気で卒業の時が来た様だ。

で、美しい日本語習得の近道が、名文に触れることだそうだ。なるほど。読書家のたけちゃんが近況報告をしてくれる際の、類い稀なる情景描写の豊かさ、分かり易さの源泉はここにあったかと。今更ながらに関心して、今日から始まる一週間の東京ジャーニーのお供に、数ヶ月前にキオスクで買った、堀辰雄の「風たちぬ」を鞄に忍ばせた。電車や飛行機ではついつい、音楽に聴き入っちゃうんだけど、これからは意識的に名文に触れて、美しい日本語の習得に励む所存でございます。

「毎日、二四時間使う日本語が「美しい日本語」の人は、どんどん感性が磨かれ、理性的で心も豊かになり、仕事もプライベートもすべてが充実していきます。」だって。ということで、後厄も終えたことだし、何事にも上質を求めて行きたいですな。「本気で凄い」上質を。

写真:海士町のホタテ。あり得ないでしょ。このかわいい配色。

プロフィール紹介

中渓宏一 Koichi Nakatani

1971年ワシントン州シアトル生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、三菱商事に6年間勤務。日本初のe-learningベンチャーに数ヶ月転職した後に世界放浪の旅へ。世界各地の祭りを追いかける旅は、環境活動家「アースウォーカー」との運命の出逢いをきっかけにアフリカの大地を歩き、木を植える旅に。帰国後は日本列島を徒歩で二回縦断、主に小学校での植樹活動を行った。2011年に家族でチリのパタゴニアに移住、オフグリッドな森暮らしの楽しさを伝える「森かえる」プロジェクトを国内外で展開中。著書「地球を歩く、木を植える」(エイ出版)

竹本吉輝 Yoshiteru Takemoto

1971年神奈川県生まれ。横浜国立大学国際経済法学研究科修了。外資系会計事務所、環境コンサルティング会社の設立経営などを経て、2009年、株式会社トビムシ設立。10年、ワリバシカンパニー株式会社の設立に参画。13年、株式会社東京・森と市庭を設立、代表取締役就任。専門は環境法。国内環境政策立案に多数関与。同時に、財務会計・金融の知見を加味した環境ビジネスの実際的、多面的展開にも実績多数。立法(マクロ政策)と起業(ミクロ市場)で双方の現場を知る。